村のお母さんたちが運営する金融組織「マザーバンク」
だがマザーバンクができてからは、メンバー自身が資金を共同管理し、金利ゼロで貸付を行っている。さらには、農作物の栽培・加工・販売、ミュージシャンとして国内各地でライブをするなど、メンバーがともに学び、成長する場に発展しているという。“村のお母さんたち”が織りなすローカルなエコシステムについて、相互扶助組織を長年調査対象としてきた文化人類学者の平野美佐さんとともに、マザーバンクメンバーと設立に関わったブンガ・シアギアンさんに話を聞いた。
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それよりも、以前より地域の自治会で続いていた、「ゴトン・ロヨン」に基づく互助の考え方が根底にあったとブンガさんは話す。ゴトン・ロヨンとは、農村での助け合いに端を発する、インドネシアの相互扶助習慣のこと。スカルノ政権時に建国五原則を包摂することばとして用いられるなど、政治的言説に援用されることも多いものではあるが、それをマザーバンクでは民衆の自律的な精神を示す概念として積極的に用いたということになる。
マザーバンクの融資の仕組みは、年に1回、10カ月を1期と定めて貸付を行うというものだ。返済は40回分割払いで、利子はかからない。週1回、メンバーが集まるタイミングで返済を行うが、経済的な事情で用意できない場合は、相談の上、支払いを遅らせることもできる。借入金の用途については、エモック銀行とは異なり事業用資金に限定しておらず、ビジネスのほか、医療や教育、子の就職支援といった目的にも利用できる。なお、いずれの用途においても緊急性が高いと判断された場合に限り、融資が決定される。これまで、各家庭が喫緊の経済ニーズをもっぱらエモック銀行に頼ってきたことを踏まえると、マザーバンクはオルタナティブとしての役割を強く意識しているといえるだろう。
「自分たちで資金を運用して貸付を行う点、またお金のやりとりを中心にして参加者をエンパワーメントしていく点で、アフリカ、特にブルキナファソのマイクロファイナンスの事例に似ていると感じました。ブルキナファソの農村では、ヨーロッパ系の支援団体が入り、資金提供とその運用方法、エンパワーメントのための活動を教えて、自立を目指すパッケージ型の支援が行われていました。
「マザーバンクは利子を取らない分、バンドや農業など、さまざまな活動で資金を増やしていく必要があり、そうした点では規模の拡大はなかなか長い道のりかもしれません。一方で、これはカメルーンの『トンチン』、沖縄の『頼母子講』とも共通していますが、マザーバンクは一人ひとりがファンドの担い手として、自立して運用に関わっている。さらに、音楽活動というアートと金融が一緒になっていることは世界的に見てもユニークです。マザーバンクはメンバー同士の相互扶助だけではなく、村の発展という、より大きなものを目指しているため、一人ひとりのメンバーが抱えるものは大きいといえます。しかし彼女たちは、この活動を楽しみながら続けていることが素晴らしいと思います。この取材を通して、金融がもつ新たな可能性を感じることができました」