多様性を活力とした協働
今からちょうど4年前の2015年4月、私は東京大学総長として初めての入学式に臨みました。みなさんの多くも新入生として、同じ式に出席されていたと思います。その席で私がみなさんに伝えたメッセージの中に、「多様性を活力とした協働」という言葉がありました。覚えているでしょうか。
実際、最近の世界情勢を見渡すと、何が真実かよりも、何が多くの人々の感情を揺さぶるかということがより重要視されているように感じます。まさに「ポスト・トゥルース」時代に突入してしまったと言えるのかもしれません。そしてこうした風潮は、安易な多数派偏重を生みます。これは、少数意見の声に耳を傾け、多様性を尊重し、皆で結論を導き出すという、民主主義の本来の理念に反するものです。
ここでは、みなさんの先輩である見田宗介先生の優れた論考を手掛かりにして、多様性を尊重することの重要性を改めて考えてみたいと思います。
私たちは、ついつい自分が主流派・多数派に属していると思い込むことで安心を得ようとします。翻って、自分と異なる他者に対しては「変わり者」や「異端」のレッテルを貼りがちです。一方で、多数派に属しているつもりだった自分が、何かのはずみで突然「異端」の側に立たされてしまうという事態が、いとも簡単に起こりえるのです。だからこそ、多様性を尊重するということの重要性を、常に強く意識しなければならないのです。
さらに、そのような問いかけを、自分のみならず、他の人にも投げかけ、ここでいうconsummatoryな感覚を分かちあってほしいと思います。自分も他者もそれぞれに、ともに心躍らせている、そのような質の高い「共感」こそが、新しい社会を望ましい方向に向かわせる推進力になると私は考えます。全員が一つの幸福に向かうのではなく、多様な幸福が共存し、緩やかに結合する。そうした社会のあり方を、まさにともに心躍らせる活動として模索してください。それが「多様性を活力とした協働」なのです。私はみなさんに、そのような活動を牽引する、新たな時代のリーダーになっていただきたいと願っています。