マタイ効果
マートンは、条件に恵まれた研究者は優れた業績を挙げることでさらに条件に恵まれる、という「利益—優位性の累積」のメカニズムを指摘した。マートンは、新約聖書のなかの文言「おおよそ、持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は、持っているものまでも取り上げられるであろう」(マタイ福音書第13章12節)から借用してこのメカニズムを「マタイ効果」と命名した。著名科学者による科学的文献には水増しする形で承認が与えられ、無名科学者には与えられない。たとえば、ノーベル賞受賞者は、生涯ノーベル賞受賞者であるが、この受賞者は学界で有利な地位が与えられるために、科学資源の配分、共同研究、後継者の養成においてますます大きな役割を果たす。マタイ効果は科学のコミュニケーション網において迅速にかつ広範に知名度の高い科学者の貢献が組み込まれる点で、科学の発展を促進するプラスの側面を持つが、一方で、科学の権威の偶像化を招くまでになると、マートン・ノルムのうち「普遍主義Universalism」のエートスを犯すことになり(たとえば無名の新人科学者の論文は学術誌に受理されにくく、業績を発表することについて著名科学者に比べて不利な位置におかれる)、科学の発展を阻害するマイナスの側面を持っている。
「4月生まれの子は成績もいいしスポーツもできる」という、発生学から考えればとても不自然な事実は、私たちに、人を育てるに当たって最初期のパフォーマンスの差異をあまり意識せず、もう少し長い眼で人の可能性と成長を考えてあげることが必要だ、ということを教えてくれるように思います。