破壊的イノベーションは誤解されている
DesertNewsの訃報記事によれば、近年クリステンセン氏は「破壊的」(disruptive)という言葉が一人歩きしていたことを憂いていたようです。記事では、ベンチャーキャピタリストという人種が「本を読まずに用語を使う人たち」と名指しで揶揄されています。
早とちりな人に誤解されないためにも、単に「破壊的イノベーション」という代わりに、行動経済学者のダニエル・カーネマンが『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』で人間の思考様式を「タイプ1」「タイプ2」と抽象的な番号で区別したように、「タイプ1イノベーション」「タイプ2イノベーション」と名付けるべきだった、と言っていたそうです。これなら「2つの違いは何だろう?」と詳しく耳を傾けざるを得ませんから。
スタートアップという文脈で本当に問うべきなのは、数年後にやってくる低遅延や高速転送によって、これまで専門的なサービスでしかできなかったことが数万円のモバイル端末で1億人に届けられる応用は何だろうか、ということではないでしょうか。オモチャのような代替品ではあるものの、5Gによって初めて可能になること。それは官公庁や通信キャリアのレポートを見て書かれていることではないように思われるのです。なぜなら、ピカピカの通信技術で可能になる応用がオモチャのようであってはならないからです。「5Gで可能になる世界」を関係者が描くとき、そこにも想像力のジレンマと呼ぶべきものがあるではないでしょうか。早すぎるクリステンセン氏の訃報に触れて、そんなことを考えていたりしたのでした。