感情資本主義
仕事では「怒りのコントロール」が必要とされ、恋愛では「コスパ」が求められる……。理性的・合理的な領域である「仕事」と、感情的・非合理的な領域である「プライベート」の区別がますます曖昧になる現代社会を読み解くうえで、大きな示唆を与えてくれる概念が「感情資本主義」です。
近代資本主義の発展を、「経済的行為のエモーショナリゼーション」と「感情生活の経済化・合理化」が同時に進行する動的プロセスとしてとらえるこの概念を提唱したのが、イスラエル=フランスの社会学者エヴァ・イルーズ(ヘブライ大学教授、EHESS教授)さんです。
経済的行為のエモーショナリゼーション
感情生活の経済化・合理化
が両側から進行している、という前提に立っているのか。なるほどね〜。
1920~30年代には「職場の心理学化」が生じます。生産性を高めるためには、働く人の感情や対人関係を相応に整え、利用するのがよいと企業が気づいたのです。理想のリーダー像もそれまでの権威ばった人物ではなく、「熱心で人柄がよく、従業員にもフレンドリーであるよう自己コントロールできる」人物へと変化しました。そうしてアメリカでは1930年代以降、成功を説くビジネス書が、ポジティブ・トークや共感、熱意を重視するようになり、友好的で快活であれと強調してきました。
ここ20~30年の間に、企業が労働者を雇用したり評価する際、「感情知能」を指標とすることが増えています。企業のなかで、「感情知能が高いセールスパーソンは売り上げ成績がいい」といった考え方が支持されるようになると、ある特定のパーソナリティの型をもつ人 ──例えば、感情をうまくコントロールし、心地よい話し方ができる人―が高く評価されるようになります。そして、感情知能の高い人ほど、感情を資本にうまく収斂することができるため、感情の階層化が生じます。これが、感情資本主義のひとつ目の側面、「経済的行為のエモーショナリゼーション」です。
そして感情資本主義の第二の側面として、愛やロマンス、他者との親密な関係性が、正義・公正・公平という政治的言語や功利主義的な言語で染められていること──すなわち「感情生活の合理化」が挙げられます。
なるほど、これについても自分で思い当たることはあるなあ。
そして、感情資本主義の第三の側面は、「エモディティ」(感情商品)です。ダイヤモンドや洋服といった有形の商品ではなく、旅行や怒りのコントロール法を習得するためのワークショップのように、無形で、リラクゼーションや家族との楽しい時間、コミュニケーションスキルといった自己変容や感情の変容がもたらされる一連プロセスが商品となっています。
経済的行為のエモーショナリゼーションと、感情生活の合理化、そしてエモディティ。資本主義は否応なく人々の感情を巻き込み、「心の科学」やフェミニズムに由来する言葉とマーケットに由来する言葉が結びつき、文化的にも政治的にも強力になるなかで感情資本主義が発展してきたという指摘は、現代社会を考えるうえで大変重要であるとあらためて思います。
記事のおわりにかけて、最終的には以下の 3 つの観点を示したわけか。
経済的行為のエモーショナリゼーション
感情生活の経済化・合理化
エモディティ