学習中のみなさんに送る「アンラーニング」の話
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大和田純と申します。フィヨルドブートキャンプには「アドバイザー」という立場で関わっています。「メンター」のみなさんのように「これをやる」という明確な役割はありません。そんな中でも、フィヨルドブートキャンプの受講生のみなさんから見て「身近なところにいる先輩ソフトウェア開発者」になれたらいいな、と思いながら関わっています。 2021 年の下半期は「気楽に話せるオンラインのランチ会」を企画し、全部で 10 回くらいのランチ会を開催し、だいたい 15 人くらいの人々と楽しいランチタイムを過ごす機会に恵まれました。ぼくにとってはただただ楽しい時間で、ご参加いただいたみなさんに感謝しています。ありがとうございました。
テーマを決めずにおしゃべりする回もありましたが、ほとんどの人は「企業で働くソフトウェアエンジニアに聞きたいこと」「ソフトウェアエンジニアの採用に関わっている人に聞きたいこと」「最近のお悩み」等のトピックを事前に考えてきてくれて、それに対して「大和田純の個人としての意見でよければ」と前置いた上で考えを述べたりしました。
さて、そうしてさまざまなお話をしていると、フィヨルドブートキャンプの受講生のみなさんに共通して言えそうなことが見つかってきたりもします。ぼくが見つけたものを紹介してみましょう。 インプリンティング
雛鳥ほど極端な例ではないにせよ、われわれ人間にも似たようなところがあるでしょう。
最初に入った会社で教えられたこと
小中学校で教えられたこと
生まれ育った家で教えられたこと
これらが、今でも自分の考え方の下地になっていたりしませんか?ちなみにぼくは「ごはんを残してはいけない」という親の教えが体に染み付いていて「無理して食べると体によくない」と頭ではわかるような状況でも、食べずに残すという行為に強い抵抗感を覚えてしまって無理して食べてしまうことがあります。もう 30 年以上も前に叩き込まれたことを拭えずにいるわけです。
「食べ物を無駄にするのはよくない」という考えは、支持できるところもあります。とはいえ、具合が悪くなるほどに満腹を感じているときには「残す」という選択肢も検討したいところです。ここが難しいですね。今の自分から見て明らかに共感できないような考えであれば捨てるのも簡単ですが、一理ある考えとなると捨てにくくなってしまいます。
アンラーニング
フィヨルドブートキャンプで学習中のみなさんには頭が下がるというか、ぼくが十数年をかけてなんとか学んできたようなことを約 1 年くらいで高速に体得していく様子は、見ていて圧倒されるものがあります。なので「学ぶ」「新しい知識を取り入れる」ことにかけては、ぼくからアドバイスできそうなことはなかなか見当たりません。 受講生のみなさんがぼくのところに相談を持ってきてくれるとき、その何割かは「これまでに身につけてきたものが、今の自分の活動の妨げになっている」パターンです。たとえば。
ひとりで抱え込む期間が長くなりがちなので、もっと上手に相談・質問をできるようになりたい
自分を卑下してしまう癖があるので、もっと堂々とふるまえるようになりたい
こういったものがあります。ぼくがお話を聞かせてもらう限りにおいては、これら「考え方の癖」の類は「人生のどこかの期間で体に染み込んでしまったもの」です。丁寧に起源を追っていって「いつ、どこで、誰によって、どういった状況で、どういった理由で教え込まれたものなのか」が判明すると、その考え方から脱却できるケースがちょいちょいあります。
小中学校時代、定期の筆記試験にて出題される問題は「自分ひとりの力で」「事前に与えられた知識を使って」解けることが前提となっていました。そういった前提の上では、自分の頭で考えて解答に辿り着くのが重要という主張は理解できます。しかし、業務におけるプロダクト開発では前提が違います。「チームの全員の知識や技能を持ち寄って」「未知の状況を試行錯誤で打開して」ようやく妥当な選択肢が見つかるくらいの問題がたくさんあります。そもそも誰かが「これを解いてください」と問題を設定してくれるわけでもありません。前提が違いすぎます。
あなたの体に深く根をはっている「考え方」について、それがいったいどこからやってきたものなのか考えてみてください。由来がわかってしまえばけっこううまいこと扱えたりもします。「実はこれ、今の状況じゃ役に立たないな〜」と思えば、押し入れの奥に閉まっておくのもよいでしょう。
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(図) 頭に突き刺さっていた観念を抜き取ることに成功してすっきりした表情を浮かべる男性 (HUNTERxHUNTER 21巻)
学びの日々が楽しいものになりますように
ソフトウェアの業界で働く自分にとって、別の業界から新しい人たちがやってくるのは本当によろこばしいことです。人によって合う・合わないはあるでしょうが、楽しみながらの学習が半年くらい続いている人を見ると「きっと、この人にとってソフトウェア開発は悪いものではないだろう」「願わくば、長く楽しめるものになりますように」と思ってしまいます。ようこそ、楽しいソフトウェア開発の世界へ!
これまでに身につけてきたものは、あなたを助けることも、あなたの邪魔をすることもあります。業界が変われば文化も違いますからね。あなたの価値観はきっと大事なものなので、邪険にするでもなく上手に付き合っていくのがよいと思います。あなたの価値観の起源をたどって理解を深めれば、上手に付き合うヒントが見つかるかもしれません。
学習の日々の中で、ふと一息つくときに。この話を思い出すようなことが一度でもあれば幸いです。