スペキュラティブデザイン
スペキュラティブデザインというのは、「未来はこうあるべきだ」と提唱するのではなく、「未来はこうもありえるのではないか」と問題を提起するデザインの方法論です。問題提起は日本語だとちょっと怒ってるみたいなので、私は日本では「問いを立てるデザイン」と呼んでいます。
しかし、スペキュラティブデザインが目指しているのは、デザイナーは消費社会とか資本主義社会に取り込まれず、そこから出て人間の在り方や社会について、デザインを通して問いを立てて、議論を促していくべきということなんです。
建築の世界にも「アンビルド建築」というものがあります。実際にそれが建てられるということは目指さず、既存の建築やそれを取り巻く制度に対する批評あるいは刺激剤として構想される建築ですね。スペキュラティブデザインも、そういう流れの一つです。
それでも思春期の私がエンジニアではなく、アーティスト的な仕事に惹かれたのは、テクノロジーそのものより、テクノロジーが人の価値観や生き方、文化、社会のシステムにどのような影響を与えるのかというところに興味があったからだと思います。
美術館に行くと、よく分からないものや意味が分からないものにあふれているじゃないですか。それがすごく刺激的だった。基本的に資本主義社会は、データに基づいて合理性、効率性によって動こうとするところがありますけど、それでも人間が生きていく上では、芸術という、ある種の豊かな無駄や余白というのが大事だという思いもありました。
アーティストとして、本当に面白い時代に生まれたなと思っています。