Comparative Experiments on Simulated Tornado Experience via Virtual Reality and Augmented Reality
【2022年度 論文賞】(The Journal of Information and Systems in Education,Vol. 19, No. 1, pp. 21‒31) 本論文の扱う「問い」
竜巻疑似体験 VR・AR において,1) 視聴覚効果で竜巻の恐怖を感じさせることができるか? 2) 恐怖は自己効力感や学習意欲にどう影響しうるか? 3) VR と ARのどちらが竜巻疑似体験に適しているか?
本論文のここが面白い!
災害から自分や大切な人の命を守るための第一歩は,災害の自分ごと化です.本研究では,災害を疑似体験することが災害の自分ごと化につながると考え,疑似体験技術として仮想現実(VR)と拡張現実(AR)に着目しています.また,災害疑似体験を通じて適度な恐怖を感じさせることが自己効力感や学習意欲を向上させるとも考えています.「あぁ,怖かった」とだけ感じさせて終わるのではなく,命を守ることに対する自信と学びにつながる災害疑似体験 VR・AR の開発・検証に取り組んでいます.
さまざまな災害がありますが,近年日本でも被害が報告されており,災害疑似体験 VR・AR ではあまり例のない竜巻を扱うことにしました.竜巻でもっとも恐怖を感じるのは暴風ですが,VR・AR による視聴覚効果だけで恐怖を感じさせることができるのか?という疑問が生じ,これを検証することに面白さを感じた次第です.そして,竜巻に巻き込まれ暴風で負傷するような表現は過度だと考え,体験者(学習者)に徐々に近づくものの消えていく竜巻を表現して適度な恐怖を感じさせようとする VR・AR(没入型 HMD を採用)を開発しました.しかし,(台風の実体験はあるが)竜巻を実体験した人は少ないことから,竜巻疑似体験 VR・AR で感じる恐怖は漠然としたものになり,十分に検証できないのではないか?という懸念が生じました.そんなとき,徳島県立防災センターの暴風体験室を使用させてもらえることになり,秒速 30 メートルの風を受けながら竜巻を疑似体験できる(あまり例のない)VR が可能となりました.この暴風あり VR を基準とし,暴風なし竜巻疑似体験VR・AR による恐怖,自己効力感,学習意欲の変化を体験者アンケートで比較検証してみました.
検証の結果,竜巻疑似体験 VR・AR は暴風を伴わなくても,1) 視聴覚効果で竜巻の恐怖を持続させることができ,2) 恐怖による自己効力感の低下が学習意欲を向上させる可能性が示唆され,3) 運用面などから竜巻疑似体験 VR がより適していることがわかりました.本研究は進展中の段階で,どのような学びにつながるのかを含めて明らかにしなければならないことが多く残されていますが,視聴覚効果で暴風の恐怖を感じさせる可能性を示せたことは面白い成果だと思っています.
https://gyazo.com/4539244ee473a953bab10dceac186bae