複数シチュエーションでの MIF 誤概念解消を目的とした学習手法の開発と評価
本論文の扱う「問い」
力学を学んだにもかかわらず「運動物体には運動の向きに力が働いている」という誤概念を持つ学習者のための効果的な学習方法は?
本論文のここが面白い!
「運動をする物体には運動の向きに力が働いている」と考える Motion Implies a Force(MIF)誤概念は,人間の日常経験による素朴理論です.例えば,図のように物体には下向きの重力が働いていますが,MIF 誤概念を持っていると,運動の向きに力が働いている,と考えてしまいます.歴史的にも,ニュートンが加速度と力を関係付けた運動の法則を確立するまでは,ケプラーやガリレオでさえ MIF 誤概念のような考え方をしていたといわれています.
学校では,力は運動の原因なので「力から運動を考える」ように教えられます.しかし,MIF 誤概念を持つ学習者は力の理解があいまいなので,この教え方は誤概念の解消につながりません.一方,力学既修者は,運動の法則や加速度などについて,断片的にでも知識を有していると考えられます.そこで本研究では発想を逆転し,加速度から力を考えさせる学習を行いました.その結果,半数以上の既修者が,水平方向の正の等加速度運動を例示しただけで,垂直方向の負の加速度の転移課題などでも誤概念がみられなくなりました.一方,図の放物運動の頂点で加速度が 0 と考える別の誤概念や,過去の暗記学習の影響で理解が混乱した例もみられました.このような学習者の概念変化を詳しく検証することが今後の課題です.
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