管楽器演奏音可視化システムの導入・活用に影響を与える吹奏楽指導者の特徴 ー指導者と開発者の対話にもとづく質的研究ー
本論文の扱う「問い」
演奏音を可視化するシステムの導入・活用に影響を与える吹奏楽指導者の特徴とはどのようなものか.とくに,吹奏楽に関する知識やテクノロジに関する知識を有する吹奏楽指導者は,そうしたシステムについてどのような可能性を認識しており,またどのような教育的信念がその認識を形作っているのか.
本論文のここが面白い!
本論文は,学校吹奏楽における演奏音を可視化するシステムの導入・活用に関する指導者の認識と,その背景にある指導者の教育的信念について,解釈学的なパラダイムによる質的研究によって探索的に検討したものです.これまで,教育テクノロジの導入や活用においては,教師が「門番」の役割を果たすことが指摘されてきました.そこで本研究では,学校吹奏楽という分野を対象に,指導者とシステム開発グループのメンバーとの対話(インタビュー)とSCAT による分析から,この「門番」の役割の様相を描き出すことを目指しました.
本論文では,指導者が学生の「自己調整型個人練習」の支援を目指していたこと,テクノロジの客観性を学生の主体性を促進する補完的ツールとして捉えていたことを明らかにしました.また,そのような指導者の認識を形成する背景には,学生の主体性を重視し,長期的な視点を持つ教育的信念があることを指摘しました.
本論文が教育テクノロジ研究において持つ意義は3点あります.第1は,教育テクノロジ導入・活用時に教育現場の認識を丁寧に把握することが重要であることを示した点です.第2は,教育現場へのテクノロジ導入時には,システムの技術的な高度さよりも,指導者の求める学習環境としての整合性が重要であることを示した点です.第3は,指導者と開発チームのメンバーとの対話を対象とした質的研究の有効性を示した点です.本学会では,解釈学的なパラダイムによる質的研究はあまり多くありませんが,本論文が,こうしたアプローチも含めた教育システム情報学研究の議論を広げ,指導者や学習者の学びに寄り添う教育・学習支援システムの研究に少しでも貢献できれば幸いです.