2022年度の日本・台湾の現代舞台芸術交流プログラムでは「都会から離れたアート関係者」と題して、日本と台湾で活動する舞台芸術のプロデューサーの対談を行いました。
ここ数年で日本、台湾ともに都市からそれ以外の地域に生活、仕事の拠点を移して活動するアーティストやプロデューサーなどのアート関係者が増えており、またその流れは今後も続いて行くのではないかと感じています。拠点を移したことによって見えてくる可能性や課題などについて日本と台湾の状況を知ることで、新たな舞台芸術の発展へ繋がる機会となれば幸いです。
登壇者のお二人には事前にプロフィールや今までの活動内容を共有していただき、それを踏まえて各自3つずつ質問を準備して対談日に質問を交換して対話を進めていただきました。
開催日時:2023年1月11日(水)
登壇者:
河村竜也 Tatsuya Kawamura(Producer, Actor, Assistant professor of Collage)*豊岡/日本 吳維緯 Wu Wei-Wei(Theatre director, Playwright, Actress, Designer, Curator)*高雄/台湾 https://scrapbox.io/files/650114118a2726001c5dace4.png
【質問事項】
河村竜也→吳維緯
1.舞台芸術業界のDX化の現状(制作周り)
2.台湾の文化政策の課題(特に少子高齢化を控える地方の文化政策)
3.国際交流の状況(特に中国との関係)
吳維緯→河村竜也
1.日本の首都圏以外の劇場のビジネスモデルはどんな感じですか?(河村さん周り)
2.日本では、皆さんにとって共感度が高い文化政策はありますか?
3.劇場制作の仕事の役割分担を教えてください。
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【移住の理由】
ウェイ:私は台北で生まれ育ち、フリーランスの舞台監督や女優などの仕事をしていましたが、安定した収入を得て自分のやりたいことをできるようになりたかったので、教師になるために10年前に高雄に移住しました。
ただ、実際高雄に行って教育現場に入ってみると、そこで足りないものや学生たちが必要としているもの、例えば高雄で芸術を学んだ学生のうち高雄に残り就職できるチャンスがどれくらいあるのかといった問題がどんどん見えてきました。そこで、学生たちが高雄で就職できるように、高雄で財団法人を立ち上げて、地元のアーティストのサポートと芸術教育の活動をしてきました。
河村:私が地元の広島から東京に出たのは22歳の大学生のときで、同時に劇団青年団で俳優としてこの業界でのキャリアがスタートしました。青年団での海外ツアーに参加して、国際交流の経験ができたことで、日本の中央集権的な都市にアートが集まりすぎている偏った文化政策のようなことに体感として気づけたことは、今の自分の活動にも大きく影響しています。
東京2020オリンピックに向けた10年間は文化予算も東京にすごく集中的に流れる時期があり、今はそれが終わり結構悲惨な、苦しい状態だと思います。そうなる前にできるだけ早く地方に移住して、新しい文化政策に貢献したいなと思い、2019年に豊岡へ移住しました。
私もウェイウェイさんも、舞台監督、俳優、プロデューサーもやっていて、様々な立場を経験してきたことが結果として活きていると感じています。その自分のポテンシャルをできるだけ発揮したいというのもあり、今は豊岡演劇祭のプロデューサーもやりながら、芸術文化観光専門職大学で教員もしています。
【舞台業界におけるビジネスモデルについて】
河村:芸術文化観光専門職大学は舞台芸術やアートを観光・ツーリズムとかけあわせて新しいイノベーションを起こそうとしているという点で、新たな挑戦をしていると言えるかもしれません。
ウェイ:地図を見ると、台湾の形はじゃがいもやタロイモに似ているとよく言われるのですが、文化予算から見ると実はしいたけの形になっているんです。上の方が文化芸術の活動や予算が充実していて、下は細長くなっている、というのがまさにしいたけの形です。ただ、そのしいたけの上の部分の養分はすべて下から持っていかれているのです。私自身違和感を感じていることですが、高雄は台湾第二の都市なのに文化予算の差が激しいというのは、驚くべきことだと思います。
また経済的な理由で学生が台北から出られないという問題を解決する必要があります。文化予算が首都圏に集中することで地元の政府がもらえる予算が少なく、また、その予算は行政に集中するため、民間にはなかなか降りてこないという問題もあります。
私が高雄に来た時、革命的に初めてやったプロジェクトが、高雄で民間主体のフェスティバルを立ち上げるということでした。私たちは“ソフト革命”と呼んでいます。
観客の育成として政府がすでに大型のフェスティバルをやっていたので、私たちはアーティスト、クリエーター側を育成するために小さい規模のフェスティバルを行い、若手のアーティストが発表できるスペースを作りました。政府がやっていることに多少不満は持っていても、それを批判するのではなく、自分たちにできることをやるという気持ちが強いです。
近年では、福岡県糸島の糸島芸農というフェスティバルとも連携していて、私たちのビジネスモデルと近いと感じています。政府からの支援にあまり頼らず、民間の力でまわしているフェスティバルで、予算は少ないですが自分たちの権利が強い分やりたいことが実現できていると感じます。
河村さんが教えている大学の、観光とパフォーミングアーツを連携させるという取り組みは、とても大事だと思います。パフォーミングアーツ業界だけでは解決できないことも、観光の力を借りることで、新しい進路が見えてくるのではないかと思いました。
私たちが今頑張っているのは、しいたけの形をエリンギにしていくということです。
河村:なるほど、いい例えですね。高雄の都市規模はどんな感じですか?
ウェイ:高雄市と高雄県が合併されたため、今の高雄市はとても広くて長いです。活動範囲も高雄の中心部だけではなく、端の方まで広げたいと思ってプロジェクトを作っています。また高雄の中でも特定のエリアだけで活動している芸術団体や劇団がいくつかあります。
そしてもうひとつおもしろいのは、高雄が移民都市であるということです。移民が多いのは港町の特徴ですが、それは海だけではなく、川にも当てはまります。特に東南アジアからの移民がとても多いのでその人たちも私たちのターゲットと考えています。
【文化政策の現在地】
河村:豊岡市は高雄市とは比較しようもないくらい小さくて、人口減少などが進んでいる、社会課題が凝縮されたような街です。観光と合わせたまちづくりもキーワードだと思っています。
台湾も少子高齢化という社会課題を抱えていると思うのですが、そのような課題を共有することはできますか?
ウェイ:同じ状況だと思います。特に教育現場で働いていると少子化が津波のように迫っていると感じます。台湾では、寅年はみんな子どもを産まないので寅年は一番人口が少なくて、辰年が一番多いです。12年後の寅年はどうなる?というのが、皆が危機感を持っていることです。
河村:おそらく日本と台湾で社会やアートの業界が必要としていることはすごく共有できていて、育成や街とアーティストを繋ぐという機能など、その辺の問題も共感できますよね。
そういう課題感をもってこの10年ほど色々な試行錯誤がされていますが、日本の文化政策の根幹にある最も大きな課題は、劇場とか文化施設に、美術館でいう学芸員にあたるような、アートコーディネーター、マネジャーのような専門職を置くことが義務付けられていないことがあると思います。どんなにアートマネジャーを育成機関で育成しても、受け入れ先が整備されきっていないというのが問題なんですよね。
だから大きな挑戦としては、国の法律を変えるということに挑戦していなければいけないし、小さなことで言えば、足元の街の文化政策みたいなところで必要性を街の人たちに体感してもらわなければいけない。この2つを課題意識として持っています。
ウェイ:台湾も劇場やパフォーミングアーツの施設の中で学芸員のような人たちはほとんどいませんが、政府から民間に依頼して、文化政策についての意見などをリサーチするプロジェクトが行われています。リサーチの対象は劇場、劇団、ダンスカンパニー、民間団体にまで及んでいます。しかし問題は、地方政府が依頼する研究者や編集者といった人たちがその地元の文化や歴史、人々の生活についてまったく知らない、別の街や都市から来た人たちということです。
地方の団体やアーティストにとって一番大きいメリットは、専門家から有意義なアドバイスをもらえることです。デメリットは、審査のような形で採点をしていくため、審査員の基準や価値観に寄せていく流れになってしまっているというところです。結果から言うと、どの地方に行っても審査員がだいたい同じグループのため、やっていることが似通っていくという感じになっています。
小さな台湾でも、3つの大きい国立劇場が台北、台中、高雄にあります。国立劇場があるおかげで、各地の人たちにも文化イベントや展覧会などに参加できるチャンスが増えましたが、文化植民と言いますか、植民地支配のような感じで、地元のパフォーマンスが増えるのではなく、外からのものが増えているといった状況です。
東京から離れた、例えば今の豊岡で、日本政府がやっている文化政策で感心していることはありますか?
河村:外から物や人がやってきて、地方が消費マーケットの対象になるという批判は日本でも同様に起こっています。
国の文化政策で感心できる点はほとんどありませんが、担当されている現場の人たちとの課題意識の共有はかなりできていると思っています。観光というものと掛け合わせるときに、まず最初に起きる批判も同じようなものです。豊岡演劇祭でも、地元住民から得をしているのは都市からやってきているアーティストや、演劇が好きな一部の人たちだけなのではないかという批判の声があがっています。
ここまでは、国の役人たちも理解しています。文化と観光を掛け合わせるときに、観光に軸を置くのか、文化に軸を置くのかという議論が論点になりました。当たり前ですが、文化というのはほぼ全てを包括しているものなので、文化が軸になりました。
日本は文化庁と観光庁が予算をつけながら、国策のひとつとして「文化観光」を推進しています。できるだけ簡単に説明します。
文化というのは街や地域を中心に起こるもので、そこの価値をまず見直そう、あるいはそこにさらに付加価値をつけよう、ということがまずベースになります。そのために国も投資します。そうすることで観光客がその街での滞在時間や観光消費額を上げ、経済循環が生まれるということを狙っていて、そこで得た利益を文化に再投資するというところまでが、国が考えたビジネスモデルです。基本的にはこの政策には賛成していますが、このビジネスモデルは割と京都とか大阪とか、既存の観光都市をベースにしているところがあります。
私たちが挑戦しているのは、そういった既存の文化遺産が豊富にない地方で、この好循環を生み出そうとしていることです。
それはわかりやすい温泉街というものもあれば、海や山の風景であったり、なんでもないような自然も含めたものをフィールドにして、そのサイクルを生み出そうとしています。
豊岡演劇祭が抱えている課題の核心は、芸術がわかりやすい文化遺産ではないがゆえに、地域の人があんまり魅力だと思っていないものを私たちが魅力だと言っているところです。すぐに受け入れてもらえるものではないというのが難しいところだと感じています。
でも少しずつですが、変化を目の当たりにした人たちによる共感が連帯を生んでいくような動きは、足元で広がっているとも感じています。最初はエイリアンみたいな人たちがやってきたと思われていたところから、学生たちも含めた足元の活動によって、少しずつ人間として見始めてもらえているのが現状ですね。
ウェイ:近年、台湾でも文化と観光を繋ぐ取り組みが進んでいます。ただ、プラン立案というのは政府にしかできないことです。例えば、いま河村さんがいる豊岡で豊岡演劇祭という事例があって、その主導権を握っているのはどちらですか?
豊岡演劇祭での予算、収入面の分配、また具体的な観客の構成も知りたいです。
河村:予算面では、だいたい日本円で1億円くらいの予算が動いています。今のところほぼ全て、国または地方自治体の予算による公金で、表面上は全て税金扱いになっています。
内訳としては7割は市の税金ですが、そのうち半分は国からの地方創生という文脈で使える予算で、その中に豊岡演劇祭が目的として入っています。残りの7割の半分は、簡単に言うと演劇によってまちづくりをするという目的で全国から集めた寄付金です。最後の3割は「文化観光」に特化したプロモーションで得た国からの予算になります。ベンチャーみたいな感じで、外から投資を集めている感覚に近いです。
主導権については、主導権はやりたいことがちゃんとある人にあります。豊岡市の職員の人たちもとてもモチベーションが高くて、二人三脚でやっています。国もそうですし、寄付してくれている民間の人たちもそうかもしれませんが、新しい地方創生の姿を豊岡で実現してほしいという、そういうヴィジョンに共感してお金が集まってきています。
ただ、こうやって説明すればわかるのですが、このロジックは市民の方々にはなかなかわかってもらえません。地域の方とのコミュニケーションで、少し齟齬が起きているのを改善しようとしているところです。
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観客層については、約7割が兵庫県で、感覚的に地元の人はこの外枠のほぼ50%くらいです。そのほかマーケットのターゲットは2時間圏以内くらいの都市部(大阪、京都、神戸)で、30%くらいが都市部から引き寄せているという感じです。
青色の推移を見ると、地域に対してのプロモーションはある程度成功しているといえます。ただ、経済的な側面で言うと宿泊などがないため観光消費額は落ちるので、そのバランスはよく見ています。
ウェイ:素晴らしいデータですね。台湾でよく言うのは「ローカルがローカルであるほどインターナショナルと同じ意味になる」と言います。説明が難しいですが、地元を地元化するとそれが一番世界標準に近くなる、という変な言葉なんですが、私はそこまでこれに賛同はしません。なぜかと言うと、どんどん自分のサークルの中だけに留まってしまうことになるので、どんどん外に行くことが難しくなるからです。
河村:なるほど。たしかにそういう面もありますね。そういった感覚もとても共感できます。日本はここ5年〜10年の間に地元のアーティストが地元でやるという閉じ方ではなく、外のアーティストが地域に入って、そこに長く滞在して新しいローカライズを生むということが起きています。アーティストインレジデンスの仕組みや、豊岡演劇祭を運営するコーディネーターがその役割を果たしています。ローカライズの面白さに気づいて新しいものを生み出し、それを繋ぐコーディネーターの役割はすごく重要ということが、現在地かもしれせん。
日本の劇場の制作的な課題ですが、これまではアートと観客を繋ぐことがコーディネーションをする、ということでした。それが今では、社会福祉だったり教育機関のようなところまでをつなぐことにコーディネーションの機能が求められています。ただ、観客はどんどん減っていく時代に入ってきたので、どうやってお客さんを開拓するかと言う点からも、もう少し広い領域につなぐ機能が求められているし、わかっている劇場はその取り組みを始めています。
ウェイ:良い創作の循環をキープするために、2つ大事な要素があると思います。ひとつは安定した資金。もうひとつは選挙です。台湾では市長や県知事が変わると、その地域の文化政策にも大きな変化が起こります。今の芸術の環境を変えてほしいなら新しい党に投票する、今の芸術環境をキープしたいなら同じような政党や似たような人に投票するというように、選挙も重要な要素だと思っています。
河村:選挙が機能しているというのはつくづく羨ましいです。「共感度の高い文化政策はありますか」という質問にも関連しますが、市の政策でやっていくと、すぐに安易なポピュリズムに繋がってしまいがちです。その理由は貸館事業も、市民の愛好団体などが使えることが文化政策の中心だ、という考え方がベースにあるからです。自分の周りさえ良ければいいというようなことが民主主義のベースにあると、街や社会に対する大きな理念は共感されにくくなります。
その中でも共感度が高いのは、教育と社会福祉だと感じています。豊岡は特に今変わり始めていて、日本ではかなり稀なのですが、保育園から小中高まで全ジェネレーションの教育分野の中に演劇が加わり、演劇的なワークショップの手法が、授業の中に入り始めています。
このいかにも数値が出にくいものの成果が、5〜10年やっていくなかで、なんだか理由はわからないけれど、明らかに良くなってきています。そのことが、地元の議員レベルでもわかるようになってきていて、見る目が変わってきたという感じがします。
社会福祉の分野では、あきらかに高齢化が進んでいるなかで、菅原直樹さんのような認知症と演劇を組み合わせる取り組みもここ数年ずっと注目されていますし、そういった活動が足元で広がっていると感じています。
この辺が“共感度が高い文化政策”にあたるのではないかと思います。
ウェイ:高雄でも、国立劇場や市が運営する劇場や文化施設で、教育的なプログラムが進んでいます。高雄の場合は会場が学校ではなく、国立劇場や地域の文化センターで、必ず小学生から大学生に向けた教育プログラムや、高齢者向けの文化イベントを行なっています。
なぜ文化施設がそういったプログラムの主導権を握っているかというと、台湾での学生に対する進学への異様なプレッシャーの高さが関係していて、授業のなかで組み込むのは難しいということがあります。国や市の文化施設が夏休みや冬休みに開催しているワークショップや演劇キャンプは、毎年参加者が増えて、評判が良くなっていると感じています。
河村:日本では大学の受験方式が少し変わってきていて、これまでは知識一辺倒だったところから、協働性とか表現力、コミュニケーション力といったものが求められるようになってきています。その辺の変化とかってあるんですか?
ウェイ:あると思いますが、そのせいで実は新しい問題も生まれています。台湾での高校受験や大学受験の試験で、例えば自分が部活とか、演劇のワークショップやキャンプに参加したという実例があればボーナスポイントがもらえるというシステムが数年前に導入されました。金銭的にも、そういった活動に参加する機会にも恵まれている都市部の子どもたちは、受験のときにボーナスポイントが加算されますが、田舎の子どもたちはたとえ金銭的に余裕があったとしても、参加できるイベントがほとんどないから、そこにギャップが生まれるという問題があります。
河村:日本も全く一緒ですね。だからこそ豊岡みたいな地方で格差をなくす取り組みの必要性もPRしたいと思っています。
【舞台芸術業界のDX化について】
ウェイ:コロナ禍で政府の資金サポートもありDX化は進みました。なぜなら政府が、5Gの有効な状況で作品のクリエーションが進められるよう条件を出したからです。
票券については、この2年くらいでほぼみんながスマホのQRコードを使ったデジタルチケットを利用するようになり紙のチケットは持っていないということが多くなりました。
河村:それは、そういうリテラシーを持っていない高齢者などは大丈夫なの?
新田:みんなスマホは持っているので、早めにきてもらえたらスタッフが対応するし、スマホがなくてもデータベースが確認できるから臨時の票券を出せます。
河村:日本はシステムが乱立していて、アプリ連携もできないことがまだまだ多いですよね。
新田:なぜか日本の劇団は当日券を出すのが好きですよね。日本で票券システムをつくる難しさのひとつだと思います。事前に当日券分を確保するのは、すごく変な習慣だと思います。
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ウェイ:空間面についてのDX化ですが、リアル空間以外にもヴァーチャル空間で上演できるようなプラットフォームが増えてきました。そのひとつが私も関わっているマレーシアの技術を借りて始めた“雲劇場(クラウドシアター)”というシステムです。ここ数年間で多く活用されています。また、これだけではなくて、他のチケット販売サービスなども自分たちのバーチャルスペースを開発しています。
画像の上がステージで、下は客席です。リアルタイムで絵文字を出すこともできますし、作品を観ながらライブチャットをすることもできます。パンフレットや公演写真などの資料を載せられたり、ドネーションもできます。パンフレットなどを見る必要がなければ、カスタマイズも可能です。
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これは上演団体用のページで、リアルタイムでチケットの料金を調整したり、何%売れているのかなど、販売状況もすべてわかります。
デジタルチケットは実際に入場したときにAIがもぎるシステムもあるので、誰がどれくらい作品を観たかなどの情報も、上演団体に共有されます。上演が終わった後に上演団体の制作さんは何もする必要がなくて、公演の成果などのデータがすべてパッケージとしてもらえます。ライブチャットの記録もすべてキープされますので、それを使って報告書を書く方もいます。
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私たちが運営するこのサイトの中で一番人気が高いのは児童演劇の作品です。観客動員の最高記録は、1ステージで1500名でした。チケット料金は大体450台湾ドル〜600台湾ドルなので、日本円で言うと2000円〜3500円くらいです。
現在このスペースで上演する作品は、観客動員数が圧倒的に多い児童演劇作品で、例えば、大企業の会社が貸切公演を行うこともよくあります。これは“雲劇場(クラウドシアター)”だけではなくて、OPENTIX Liveや、KKTIX Liveなど他のプラットフォームもよくやっていることです。私たちを含めた3つのプラットフォームの特徴はチケット販売のシステムと、上演スペースのシステムがつながっているということです。
さらに特徴としてプラットフォーム上に客席のシステムがあることです。演劇を観る楽しさはやはり他の人たちと交流できることだと思うので、SNSみたいに、演劇を観なくてもここに入っていろいろ交流ができるようなスペースも作りたいと思っています。このプラットフォームはもともとマレーシアの方が開発しているので、サイトは多言語対応になっています。そのおかげで海外のプレゼンターやディレクターもこのサイトに入ってきているので、マーケットとしても機能できると思います。
新田さんもこのプラットフォームとの連携企画として、国際交流基金が主催の、日本の演劇やダンスを配信する「Stage Beyond Borders」から10作品を選んで、無料配信をやってくれました。
【台湾の国際交流の現状】
ウェイ:特に中国との文化交流についてですが、こちらは一旦ストップしています。国の政府がピリピリしているので、民間の交流も難しい状況になっています。また、私たちが交流したいと言っても、中国側の劇団、スタッフの中で「台湾人に入らないでほしい」という指示が出ているので、仕事を受けても自分の名前を出せないとか、表に出れないということが数年間続いています。
私は4年前から中国の廣州で、舞台監督を専門に教えているので、台湾の高雄と中国の廣州、2つの場所の学生たちの違いがどんどん見えてきて微妙な関係性もわかってきたように思います。
ただ、今回のような他の国のアーティストとの対談や情報交換をもっと定期的にやって行きたいと思いました。特に日本は地理的にも近いし、文化的にも共通点が多いので、同じような課題に対してそれぞれの解決案を参考にできる事例がたくさんあると思います。
例えば今日一番印象に残ったのは、文化芸術、観光、教育のシステムを連携するということです。すごくたくさんのアイディアをもらいました。
河村:烏鎮藝術節(Wu Zhen Theatre Festival)は最初の立ち上げ期のオーガナイズに台湾チームが入っていたと聞いて、いろいろ関係性も改善するなかで今の状況になったのがどんな感じだったのかなと思い、最初の質問事項で聞いてみました。
ウェイ:私の周りでこのフェスティバルに関わった人は多いですね。烏鎮で今使われているシステムは、ほとんど台湾側がデザインしたものです。運営のプログラム、開発のシステム、劇場の建て方などは、台湾のスタッフ全員でつくったものです。
これは台湾人が中国の仕事を受けるときによくあるパターンです。最初は100%台湾人が作ったものでも、年々台湾人のパーセンテージが減っていくとか、最終的に中国人しか主導権を握れないとか。今のウーツェンも100%中国人の運営になります。
河村: 中国も現代劇とかをやっていくようになるなかで、当初は台湾人の関わりがすごくあったんだろうと思っていました。でも今はそうなんですね。よくわかりました。
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プロジェクト運営メンバー:竹宮華美、新田幸生、岩澤侑生子
編集協力:宮内奈緒
本研究はJSPS科研費20H00009の助成を受けたものです。