第3 刑弁「弁論要旨」起案の目的
1 刑事訴訟における法曹三者の役割
(1)検察官:立証
立証とは,犯罪事実が,合理的な疑いを超えて認められることを,証拠に基づいて認定できることを示すこと。
要するに,合理的な疑いを超える証明というゴールに向けた,立証構造の構築。
(2)弁護人:弾劾
弾劾とは,検察官立証が,合理的な疑いを超えるレベル以下に下げること。
要するに,検察官が組み立てた立証構造を壊すこと。
(3)裁判官:認定
認定とは,証拠に基づいた,合理的な疑いを超える証明。
要するに,合理的な疑いを超える証明というゴールまで,証拠からスタートした構築物が到達しているかどうかのチェック。
2 刑事弁護人の役割
(1)検察官立証の弾劾
刑事弁護人の役割は,検察官立証の弾劾である。
検察官立証は,合理的な疑いを超える証明が要求される。
だから,刑事弁護人による弾劾とは,検察官立証が合理的な疑いを超える証明まで行かないことを論証すること。
刑事弁護人の役割は,ただひたすら,このことのみ。 真実を明らかにすること,ではない。
(2)弁護人ストーリーの立証ではない
検察官立証を弾劾するために,弁護人のストーリーを積極的に認定しなければいけないわけではない。
検察官が描いたストーリーが破綻していることを示せばよいのであって,代案を示す必要はない。
ア 弁護人主張全体の整合性は不要
弁護人の主張する事実同士を整合させようと思わなくてよい。ある箇所の検察官立証を弾劾する弁護人の主張が,別の箇所の検察官立証を弾劾する弁護人の主張と矛盾するように思っても,そんなに気にしなくてよい。
イ 具体例
たとえば,犯人性が争点となっている事件において,被害者の犯人識別供述&被告人の自白が直接証拠である事案があるとする。この場合,弁護人は,被害者の犯人識別供述と,被告人の自白の双方を,弾劾しなければならない。
このとき,被告人の自白内容が,被害者の犯人識別供述の内容と異なっていたとする。その場合は,次のように論じて構わない。
code:例
ⅰ Wの識別供述は,知覚の条件などがよくないから,信用できない。
ⅱ 被告人の自白の内容は,Wの識別供述の内容とまったく食い違っているので,信用できない。」
3 刑弁「弁論要旨」起案の目的
(1)検察官立証の弾劾
繰り返しになるが,あくまでも,検察官立証の弾劾。
検察官による立証が,合理的な疑いを超える証明になっていないことを論じる。
(2)破壊する 創造は必要なし
要するに,検察官が合理的な疑いを超える証明に向けて組み立てた立証の構造を,破壊すればよい。
さらに,検察官立証をゼロにするまで破壊する必要はない。合理的な疑いを超える証明まで行かない程度まで破壊すれば,それで刑弁「弁論要旨」起案は,100%成功。
いずれにせよ,組立てを破壊して,合理的な疑いを超える証明レベルより低くすればOK。
弁護人の立証を組み立てる必要はない。壊しちゃったから新しいもの作らなくちゃな,とか,新しいもの作れないのに壊すのは悪いな,とかは,全く不要。