はしがき
修習記録に基づく起案は,1知識・2思考・3表現によって決まるのではないかな,と私は思っています。そして,そのうちの2思考と3表現に関しては,基本的なコツや型のようなも のが,ある程度抽象的な形で,存在するのではないか,と感じています。
この「うれしいきあん」は,2思考と3表現について,そんな基本的なコツや型をまとめた ものです。研修所教官による起案講評,大阪地裁,大阪地検,大阪弁護士会における講義やゼミ,さらには名古屋大学法科大学院での授業......。そんな,私がこれまで受けさせてもらった, すばらしい教育を思い出しながら,できる限り,抽出してみました。
言うまでもなく,記録に基づく起案は,具体的な事例についての検討結果を示すものです。 そして,教官による講評も,その具体的な事案についての思考なり表現なりを説明しているは ずです。それゆえ,ある記録に基づく起案の講評での説明を,その具体的な事案を離れて,抽 象的に抽出することは,基本的には好ましくありません。
ましてや,抽出を行った私は,単なる一修習生であり,法律家としての力もなければ,修習 において要求されているものがなんなのかを知っているわけでもありません。
したがって,この「うれしいきあん」の中には,それはちょっと違うんじゃないか,という ことや,それは単純化しすぎだろう,というところなどが,いろいろ含まれているはずです。 それに対しては,弁解の余地はありません。あまり信じないでください,とか,あんまり単純に考えないでください,とか,声を大にして,お願いします。
ただ,一般に,思考や表現においては,基本となるコツや型といったものが,とても役に立つことも事実です。なので,問題は,私の抽出内容が的を射ているか,です。まあ,そこが一 番肝心なんだけれど。
記載に当たっては,私自身が,どんな説明によって「そうか!」と納得できたのかをふまえ, わかりやすく表現することを心がけました。とはいえ,まだまだわかりにくいところも多々あ るかと思います。が,ひとまずは,これが,現時点で尽くしうる私のベストです。
なお,上で書いたことともかぶりますが,わかりやすく表現することを優先した結果,過度 の単純化をしてしまい,極論を述べているところが散見されるのではないかと危惧します。く れぐれも,批判的な視線を忘れないでください。
「うれしいきあん」の前身は,私が,集合修習のまとめがてら,名大法科大学院出身の,(修 習の)同期生である新 61 期生及び後輩である新 62 期生向けに作成した資料です。
その資料の存在を,大阪修習のクラスメイトに話したところ,それを使ってクラスのみんな でゼミをやろう,という話がポンポンとまとまっていったので,その機会に大幅改訂しました。
「うれしいきあん」というタイトルは,そのゼミの際につけてもらいました。お気づきかも しれませんが,私のファーストネームが,某料理人のにいちゃんと同じところから来ているそ うです。なんだか無性に気に入ったので,利用させてもらっています。
「うれしいきあん」への改訂の際には,いろんな人の感想やコメントに助けられました。あ りがとうございます。
この資料が,少しでも,実務法曹を目指す方々のお役に立てば,そして、司法研修所における教育のすばらしさを知ってもらうきっかけになれば、望外の幸せです。
(とはいえ,研修所の教育は時代と共に移り変わっていくので,賞味期限は2,3年かな。後 の修了生によって,新たなる資料が誕生することを,祈念しております。)