菌と世界の森林再生
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出版社 : 築地書館 (2011/8/9)
発売日 : 2011/8/9
単行本 : 288ページ
ISBN-10 : 4806714283
一九三七年京都生まれ。2021年8月12日にご逝去。京都大学農学部卒。農学博士。森林総合研究所土壌微生物研究室長、環境総合テクノス生物環境研究所長、大阪工業大学工学部環境工学科客員教授などを歴任。日本菌学会菌学教育文化賞、日本林学賞、ユフロ(国際林業研究機関連合)学術賞、日経地球環境技術賞、愛・地球賞(愛知万博)などを受賞。現在、「白砂青松再生の会」会長として、炭と菌根による松林再生ノウハウを伝授するため、全国を行脚している。著書に『マツタケの生物学』『きのこの自然誌』『炭と菌根でよみがえる松』『森とカビ・キノコ』『作物と土をつなぐ共生微生物』、訳書に『ふしぎな生きものカビ・キノコ』『チョコレートを滅ぼしたカビ・キノコの話』『キノコ・カビの研究史』など多数。
引用
p220
回復初期の変化
①潜在植生の回復、保水力の増加
②落葉、根などの増加
③微生物の基質の増加
④小動物の増殖
⑤優先樹種の繁茂と根の増加、水分保持力の増加
⑥菌根菌や落葉分解菌の増加
⑦大型土壌動物の増殖
⑧土壌の団粒化と有機物層の発達、土壌の湿潤化
⑨根系拡大と植生の複雑化
⑩捕食動物の増加と侵入
以後、生態系は複雑になり、安定状態に入る。植林した場合は土壌の回復過程が不完全で、生物相が偏り、必ずしもこのようにならない。
生態系の成熟段階
第一段階「生態系の構成メンバーが出そろう」
生産者、消費者、分解者がバランスをとりながら、生物の種と数が次第に増加する。生態系の成熟曲線をS字状カーブで描くと、ラグフェーズに当たる。推定林齢30-50年。
第二段階「生態系の循環系が稼働し始める」
生産と分解がバランスをとって進み、生態系内部で物質循環が稼働し始める。それに伴って生物種がさらに増加し、次第に適応しないものが追い出されて淘汰される。二次林とされる段階で、林内環境に適応した種が優占し、植生遷移が進む。推定林齢50-100年。
第三段階「優占種の成長が持続して生態系が成熟する」
二次林の優占種が減って、環境条件に適した本来の優占種が繁茂する。階層が出来上がって複層林になり、生態系は安定状態に近づく。それに伴って動物や菌類、微生物などの活動が活発になり、生態系が成熟段階に達する。推定林齢100-300年。
第四段階「生態系が崩壊する」
環境条件の変化に左右され、樹種構成によって異なる。また、単純林や複層林など、森林の構造によっても異なる。老齢化した優占種が自然災害、病虫害などで枯死し、それに随伴していた生物が消滅する。林内環境が急激に変化するため、生態系の崩壊は早い。気候変動や病虫害の大発生がなければ、崩壊は徐々に進行するが、現在のように自然災害が多いと、推定林齢100年未満でも十分見られる現象である。
森林を破壊するのはたやすいが、いったん破壊した自然生態系をもとに戻すには、途方もない時間がかかる。