アイデアがあふれ出す不思議な12の対話
【BBM:これは傑作。】⇒『アイデアがあふれ出す不思議な12の対話』ビジネスブックマラソンvol.6081
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『アイデアがあふれ出す不思議な12の対話』キム・ハナ・著
清水知佐子・訳 CCCメディアハウス
◆目次◆
はじめに
一杯 ミスティ
二杯 レンガみたいな単語
三杯 小さなひらめき
四杯 味を描写する能力
五杯 縮尺
六杯 また別の大陸
七杯 壁との戦争
八杯 森、そしてもっと大きな森
九杯 関数の箱
十杯 引き算のアイデア
十一杯 森の陰地
十二杯 一歩
改訂版に寄せて
本日ご紹介する一冊は、広告代理店に長く勤め、現在は作家・司会として活躍中のキム・ハナ氏による書籍の最新邦訳。
舞台は真夜中の小さなバー。酒を飲みながら語り合う男女が盛り上がり、やがてアイデアや創造性のディープな話へとつながっていく…。
ストーリー形式の本ですが、事例が豊富で、創造性とは何か、アイデアとは何か、どうすればアイデアが生まれるのか、素晴らしいヒントが示されています。
主人公の「僕」は、友人であるファンが経営するバーで一人飲んでいたのですが、やがて、隣の席に座っていた女性が話に絡んできます。彼女は、広告会社で働く女性らしい。
ジャズ史上最高に美しいといわれる「ミスティ」のメロディが生まれたエピソードを披露した主人公は、隣に座っていた「彼女」にこう話しかけられます。
ーーすてきな話ですね。
一見、ロマンスに発展しそうな話ですが、途中からどうも雲行きが怪しくなります。
彼女は、にっこり笑いながら、こう話したのでした。
ーーですが、正直言うとそういう話には、うーん……副作用みたいなものがあると思っています。
ここから酔った彼女は、創造性やアイデアに関して持論を語り始め、やがて壮大なアイデアの歴史、アイデア論につながっていく。
一杯、二杯、三杯……。これは本書の章タイトルなのですが、酒が進むにつれ、アイデア論もエスカレートしていく、そんな内容になっています。
グレン・グールド、エル・ブリのフェラン・アドリア、ギュスターヴ・フローベール、ピカソ、背面跳びを開発したフォスベリー、ロープ・ア・ドープ作戦で奇跡を起こしたモハメド・アリ…。
さまざまなジャンルの優れた人物のエピソード、彼らが生み出したアイデアが知的に紹介されており、読書の楽しみとアイデアのヒント、両方が得られる素晴らしい一冊です。
本文のなかから、さっそく気になったところを赤ペンチェックして行きましょう。
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創造性は感覚の問題ではありません。創造性はーー態度の問題です。
シェリー酒やガスパチョ、焼きミカン、ポリクルビみたいなものに初めて触れると、頭の中に一つの世界が開かれます。私は、それを「舌のアイデア」だと考えます。アイデアは頭だけの問題ではありません。体には体のアイデアがあります
アドリアは、エル・ブリの料理は「魔法みたいでなければならない」と言います。ところが、彼が魔法を準備する過程は、インスピレーションあふれる芸術家というよりも実験室の科学者のようでした。(中略)私たちが食材と思わないもの、たとえば、製薬会社がカプセルを作る材料みたいなものまであらゆるものが魔術のような食感を出すために動員されたりもします
たとえば、すべての人間は平等だというのもアイデアです。「人権」というアイデアは人類の歴史の中でほんのつい最近現れた概念です。それ以前には「奴隷」というアイデアがありました
よりよい世界に対するアイデアは、すなわち「夢」です
鳥は人間にアイデアを与えるために空を飛ぶのではありませんが、人間は鳥を見て飛行機のアイデアを得ることができますから。
固定観念はアイデアにとって最大の障害物です。「正しい」というのは効率的である一方で、固定観念でもあるということです。
どんなに強そうに見える権力も、どんなに固そうに見える因習も、どんなに無情な資本も、私たちのアイデアで亀裂をもたらすことができる
アイデアを得るには愛に従うべきです。愛こそ真の力です。私たちは愛する対象に自分を開放しますから
創造力にいちばんよくない態度は冷笑です
競争はキャンバスから何歩か下がる勇気を奪ってしまいます。後ろに下がった瞬間、競争から押し出されるみたいな気がするから、みんな目の前の壁に執着してしまうのです
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こういう本を若いうちに読んでおくと、きっとアイデアというものへの態度や、モノの見方に革命が起こると思います。
ひさしぶりに酒場に繰り出して、知的な会話を楽しみたくなりました。酒と読書が好きな方に、こんなに適した本はないと思います。ぜひ、読んでみてください。