まちづくり幻想
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「まちづくり幻想 地域再生はなぜこれほど失敗するのか」木下斉
木下斉 、SBクリエイティブ
要約と感想レビュー
行政によるまちづくり事業の実情
30年間、まちづくり事業に取り組んできた著者が見てきた現実は、他の地域の成功事例を参考に全国一律に同じようなものを作り、供給過多になって失敗した事業創生事業の残骸です。役所では「予算をとってきた人が偉い」ので、無用の長物となる再開発施設を作り出し、維持費だけでその地域は首が回らなくなってしまうという。
そもそも事業で儲けようとしていないし、国の予算で立派なものを作れば地域は活性化すると思っているので、失敗した場合のことも全く考えず、考える必要もないのだというのです。もしかして、天下り先を作っているだけなのかもしれませんが。
例えば夕張市では、国の多額の支援を受けながら、維持費だけで地元の負担になる施設を作りつづけ、赤字を隠蔽するため銀行から借金を収入として粉飾決算し、結果600億円もの負債を今も返済し続けているという。企業であれば倒産して消滅しますが、地方自治体は消滅しないので、後の世代がツケを払う、完全犯罪が成り立つのです。悪気がないだけ、悪質といえるのでしょう。
国から予算をもらい、立派なものを作れば地域は活性化する、という共有解が成立していて、何をつくるばかり議論しています・・もしそれが失敗したらどれくらいの政策予算がなくなるかまで考えていない(p241)
「何をやるか」よりも「誰とやるか」
著者はこうした投資の失敗の原因は、地方を活性化するためには、立派な施設やインフラを投資すればいい、企業を誘致すればいいと短絡的に考えているところにあるという。つまり「筋のよい事業に適切な予算を確保すれば成功する」という安易な幻想を、役人や政治家が持っているのです。
本来、地方を活性化するためには金を稼ぐ必要があるのですが、ベンチャービジネスと同じように何が儲かる事業なのか、何がその地域に必要な事業なのか簡単にわかるはずがないのです。著者は、「何をやるか」よりも「誰とやるか」「誰に任せるか」の方が圧倒的に重要であるという。地方を変えるのは常に「百人の合意より、一人の覚悟」だというのです。
「何をやるか」を議論しても、 結局、どこかのコンサルに金を払って他所での成功例を引っ張ってきてやるだけになるからです。コンサルが考えることは、誰でも考えることであり、差別化ができず、よいアイデアでも供給過多となり成功する確率は低くなってしまうということなのでしょう。
地域に必要な事業は、どんなに優秀な人でも見ただけではわかりません。もしも「これをやったら再生する」なんて言い出す人がいたら、それは詐欺師です(p6)
行政の予算を使って仕事をしない
また、行政の予算を使う事業の闇は、予算の消化が既得権になっているということでしょう。毎年、地方交付税交付金として、約16兆円が配られ、インフラ整備、農林水産業、地域福祉、社会福祉の支援に使われているのです。
例えば、地方創生策ならコンサルタントに戦略作成を委託し、プロモーションは広告代理店に委託費を払って実施し、結果はどうあれ、これが続くのです。だから、行政の補助金に依存する業者は、地元で成果を挙げる人を決して勉強会などに呼ばないという。なぜなら、補助金がなくても成功している人がいると、補助金の意味がないことが明確になってしまうからです。
著者は自分で何も考えず、何もせず、何一つ失敗もせず、他人の金を使ってやれることはないか、と考える限りは、この失敗の連鎖が続くだろうと警告しています。
行政の予算を使って仕事をしようとしないことです・・そのポジションと予算を他に奪われては困るという人たちと対立し、余計なコストを支払うことになります(p115)
自治体も自ら稼ぐべき
自治体も自ら稼ぎ、その稼ぎが地域を変えるのだと著者は言います。地方公共団体が持つ公的不動産は420兆円もあり、この不動産を税金で維持するだけで役所の仕事は終わりなのです。著者は民間のように420兆円を稼ぐ資産に変換していくことができれば、地方が復活すると考えているわけです。
「民間でやれることは民間でやるべき」「官僚は人間のクズである」という主張はこういうところにあるのだと感じました。
著者はスペインのバスク自治州の労働者協同組合モンドラゴンのように、地域内消費で、お金を地域内で循環させることを提言しています。地元の知り合いのところで、買うということですね。
役所の闇は深いと思いました。補助金には近づかないほうがよいのかもしれません。民間で頑張りましょう。
引用
・「東京が魅力的」というより、「地方社会が女性に閉鎖的で、成長機会に乏しい」(p83)
・地方の人口減少は衰退の原因ではなく、結果なのです。つまり、稼げる産業が少なくなり、国からの予算依存の経済となり、教育なども東京のヒエラルキーに組み込まれる状況を放置した結果、人口が流出したわけです(p41)
・地方がなぜ貧しくなるのか・・・「安く」供給しているからです。「安くいいものを供給するのが美徳」のような洗脳を受けている(p51)
・地域おこし協力隊・・・お手並み拝見の地元、全て手探りの隊員では成功しない(p181)
・日比谷公園には稼ぐためのテナントとして松本楼などの飲食店が入り・・レンタルボートなどの乗り物があるのも元々公園予算を稼ぐためだったといいます(p212)
・地方自治体も適切に整理統合・・自治体の単位を人に合わせるのが当然であって、自治体の単位を保持するのに人々の生活拠点を強制的に移動させるなんてことは本末転倒です(p42)
目次
第1章 「コロナ禍で訪れる地方の時代」という幻想
第2章 えらい人が気づけない、大いなる勘違い
第3章 「地域の人間関係」という泥沼
第4章 幻想が招く「よそ者」頼みの失敗
第5章 まちづくり幻想を振り払え!
著者紹介
木下斉(きのした ひとし)・・・1982年生まれ。高校在学時からまちづくり事業に取り組み、2000年に全国商店街による共同出資会社を設立、同年「IT革命」で新語流行語大賞を受賞。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。2008年に設立した熊本城東マネジメント株式会社をはじめ全国各地のまちづくり会社役員を兼務し、2009年には全国各地の事業型まちづくり組織の連携と政策提言を行うために一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立。2015年から都市経営プロフェッショナルスクールを東北芸術工科大学、公民連携事業機構等と設立し、既に350名を超える卒業生を輩出。2020年には北海道の新時代に向けた「えぞ財団」を仲間と共に発足している。また内閣府地域活性化伝道師等の政府アドバイザーも務める。