チャンドラー方式
そして毎日ある時間を――たとえば二時間なら二時間を――そのデスクの前に座って過ごすわけである。それでその二時間にすらすらと文章が書けたなら、何の問題もない。しかしそううまくはいかないから、まったく何も書けない日だってある。書きたいのにどうしてもうまく書けなくて嫌になって放り出すということもあるし、そもそも文章なんて全然書きたくないということもある。あるいは今日は何も書かない方がいいな、と直観が教える日もある(ごく稀にではあるけれど、ある)。そういう時にはどうすればいいか?
たとえ一行も書けないにしても、とにかくそのデスクの前に座りなさない、とチャンドラーは言う。とにかくそのデスクの前で、二時間じっとしていなさい、と。
村上春樹 「村上朝日堂 はいほー!」 1992 新潮文庫 pp40