AI時代のエンジニアの役割と進化(2025年9月)
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AIエージェント時代において、エンジニアの役割はどのように変化するか
AIエージェントの進化により、コーディングなどの実装作業の障壁は劇的に低くなり、AIが「正しく動くコード」を生成するようになるため、エンジニアの役割は「いかにコードを書くか(How)」から「何を、なぜ作るのか(What/Why)」という本質的な価値創造にシフトします。
エンジニアは、与えられた要件をただこなす「何でも屋」ではなく、ビジネス目標を理解し、その達成に貢献する「価値提供の専門家」となる必要があります。
具体的には、深い対話を通じて顧客やチームのニーズから「意味の構造」を共創する能力、ビジネス要求、技術的制約、チームの能力などを考慮して最適なシステム構造を構想する「アーキテクチャ構想力」、そしてチーム全体の創造性を引き出す「触媒」としての役割が重要になります。
「エンジニアリングの本質」とは何であり、AI時代にそれはどう適用されるか
エンジニアリングの本質は、単なる技術ではなく、「誰に、どんな価値を届けるか」にあります。 技術は、その価値提供に応用される手段に過ぎません。
AIが台頭する時代においても、問題領域を分析し、最適な解決策を提供するというエンジニアリングの「Why/What」の側面は変わりません。
AIは偶有的な複雑性(本質的ではない、意図せず生じた複雑さ)を抽象化してくれるツールとなるため、エンジニアは人間固有の能力である「本質的な複雑性」への対応、すなわち、複雑な状況下での意思決定や価値探索に集中できるようになります。
これは、技術を深く理解し、ビジネスやチームという広い文脈の中で、持続可能で価値あるソフトウェアの「構造」を創造し、その実現を導くクリエイティビティへと繋がります。
「無邪気なソフトウェア開発」とは何か、そしてなぜそこからの脱却が必要とされているか
「無邪気なソフトウェア開発」とは、技術がもたらす長期的な影響に対する無頓着さ・無自覚さを指します。 これは、長年の外部委託による社内ITスキルの空洞化や、社内エンジニアが事業部門とベンダー間の調整役としての「何でも屋」と化す構造的な背景から生まれます。
結果として、エンジニアは自身の仕事の品質、特に「保守性」という将来のビジネスアジリティに対する当事者意識を失い、ビジネスインパクトを顧みない開発を許容し、技術的負債を温存させることになります。
これからの時代、エンジニアは、自身が担当するシステムの品質に責任を持ち、品質とは何かを学び、意味の構造を把握し、ビジネス価値提供にレバレッジを掛けられるマインドセットと能力を身につけることで、この「無邪気さ」から脱却する必要があります。
ただし「無邪気さ」からの脱却に際しては、価値観やプラクティスの一方的な押し付けではなく、個々のチームやエンジニアが何に苦しみ、どうありたいと願っているかを理解するための対話を重ね、経験と自信を積み上げていくことでしか道は拓けないでしょう。
エンジニアが「ビジネスアーキテクト」という理想像を目指す上で、どのような「問い」の進化が必要となるか
エンジニアがビジネスアーキテクトへ成長するには、「問い」の視座を段階的に高めることが重要です。
実行者の問い(How): 「どうすれば、仕様通りに動きますか?」という、与えられた仕様の実装に焦点を当てる段階。
分析者の問い(What): 「なぜこれが必要なのですか?ユーザーは何に困っているのですか?」と、仕様の裏にある真のニーズを探求するビジネスアナリスト(BA)的な視点。
戦略家の問い(Why): 「この課題を解決すると、事業のどの目標達成に繋がりますか?」と、個別の課題をより大きな事業価値に結びつけようとするプロダクトマネージャー(PdM)的な視点。
設計者の問い(構造): 最終的には「この事業戦略を実現するために、最適なシステムと組織のアーキテクチャはどうあるべきか?」と、持続的な価値創造の仕組みそのものを設計する視点に至ります。この問いの進化を通じて、エンジニアは自身の関心の範囲と影響力を拡大し、組織全体の進化に貢献する真のビジネスアーキテクトを目指します。
モデリングはAI時代にどのような意味を持ち、どのように活用されるべきか
AIエージェントが高度なコーディングを担うようになる中で、モデリングの重要性はむしろ高まります。
モデリングは、複雑なビジネス状況を整理し、関係者間で理解を共有し、事業や業務の本質的な構造(意味の構造)を明確にするための不可欠なツールとなります。
AIは情報収集や分析を加速させますが、その結果を解釈し、多角的な視点(具体的/抽象的、動的/静的)で問題領域を捉え、より良いソフトウェア設計に繋げるのは人間の役割です。
イベントストーミングやコンテキストマップなどのモデリング手法を活用することで、エンジニアはビジネスプロセスを構造的に捉え、保守性や適時性を高め、コスト効率の良いシステム開発を促進することができます。また、AIに文脈知識を与え、モデリング活動に「参加」させることで、知識の継承を担い、新たな洞察を得る可能性もあります。
AIを活用した「事業分析」を始めるにはどうすればよいか
まず、自身が興味を持つ事業やプロダクトが顧客にどのような価値を提供しているか、競合他社と比較して魅力的か、その魅力的な価値がどのような業務プロセスを経て創出されているかを調査することから始めます。
この情報収集と分析にAI(例: DeepResearch, notebookLM, Gemini)を積極的に活用できます。 AIに単に「分析して」と指示するだけでなく、「どのような目的で、何を知りたいから、どのような資料を参照して、どういった観点で分析してほしいか」を具体的に伝えることが重要です。
次に、分析で得られた洞察をもとに、開発チーム内、さらにはプロダクトマネージャーやドメインエキスパートといったチーム外の関係者と対話の場を持ち、共創を促すことが、より大きなインパクトを生む抽象度の高い問題に取り組む上で不可欠です。