ビジネスアジリティ・マニフェストへの所感
VUCAと呼ばれる変化の激しい現代において、事業と開発が一体となって変化へ迅速に適応していくことの重要性を見事に言語化しており、これからの開発における羅針盤となる考え方だと感じます。
一方で、このマニフェストが掲げる俊敏な思想が、講義でこれまで触れられてきた伝統的な 価値探索(BA)のプロセスに十分に反映されているかについては、強い懸念を抱いています。 従来のBAプロセスは、ソフトウェア開発の前に「企画」や「要件定義」といった独立したフェーズを設けることを前提としていることが多く、これは「わたし考える人、あなた作る人」という構造的な分断を生み出しかねません。
市場の変化の速度が、このようなウォーターフォール的な情報伝達の遅延を許容しなくなった現代において、この分断は致命的です。なぜなら、複雑なビジネス課題の解決には、多様な専門性を持つメンバーによる「共創」が不可欠であり、プロセス上の分断はその共創を根本から阻害してしまうからです。
この根深い分断を乗り越えるために、BAプロセスそのものの変革が求められます。
その鍵は、BAが持つ重厚長大なプロセスや知識体系を、いかに漸進的に「テーラリング」し、ソフトウェア開発のイテレーションの中に「組み込んでいく」かにあると考えます。
(例えばソフトウェア開発プロセスとしてのスクラムを採用するチームがしばしば作成する「インセプションデッキ」はその好例のように感じます。)
これは単にプロセスを軽量化するという話に留まりません。
BAの主要な活動である要求の引き出し、分析、優先順位付けなどを、開発スプリント内のバックログリファインメントやスプリントプランニングといった活動と同期させ、一体化させることを意味します。
このアプローチを通じて、BAの役割を担う人材は、チームの外部にいる「分析の専門家」から、チームの一員として共に価値創造を目指す「共創パートナー」へと変貌を遂げるべきです。
結論として、BAは開発イテレーションと分断された「前工程」ではなく、ビジネス価値創造サイクルと完全に統合された、継続的な対話と探求のプロセスへと進化する必要があります。
これこそが、ビジネスアジリティ・マニフェストの精神を真に体現する、現代におけるBAのあるべき姿だと考えます。