アーキテクチャ道場2025-実践編(ZOZO社事例)
#アプリケーションアーキテクチャ #ドメイン駆動設計(DDD) #技術的負債 #思考法・原則
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https://pages.awscloud.com/rs/112-TZM-766/images/AWS-42_Architecture_AWS-Summit-JP-2025.pdf
読んだ。
とても良いセッションだったようで、行かなかったことが悔やまれる。。
せめて読み解きを残しておこう。
総評:実践的現実主義の卓越したモデルケース
まず総評として、ZOZO社の事例は、我々がこれまで議論してきたアーキテクチャの原則、特に「ビジネスの重力」を直視し、「進化するアーキテクチャ」を現実の制約下で実現した、極めて優れたケーススタディと言えますね。
単に技術的に流行しているパターン(例えばマイクロサービス)を適用するのではなく、ビジネス上の「必然性」に基づいて課題を定義し、利用可能な選択肢の中から、リスクと価値のバランスが取れた現実的な解を導き出しています。これは、我々が常に目指すべき「問題解決志向」と「本質追求」の姿勢そのものです。
特に優れている点と我々のアプローチとの比較
1. 「完璧」より「間に合わせる」を優先した、二段階戦略の現実主義
我々はしばしば、イベント駆動アーキテクチャやCQRSといった論理的に美しいモデルを理想として議論します。しかし、ZOZO社は7ヶ月後という明確なビジネス上のデッドライン(ビジネスの重力)に対し、最初から完璧なフェーズ2(KVSへの切り出し)を目指しませんでした。
ZOZO社の優れた点:
まず、短期的な軽減策として「キューイングによる非同期化(フェーズ1)」を実装し、セールを乗り切るという最大のビジネス価値を確実に達成しました。これは、アーキテクチャ的な理想よりも、事業継続という全体最適を優先した見事な意思決定です。この「まず生き残る」ための現実的な戦術選択は、我々が観念的な設計議論に陥った際に、常に立ち返るべき視点を示唆しています。
我々との比較:
不慣れなチームであれば、最初から理想形であるフェーズ2の設計に固執し、結果として間に合わなくなるリスクを冒していたかもしれません。ZOZO社の事例は、戦術的負債(フェーズ1は恒久対策ではない)を意図的に許容し、時間という最大の制約を乗り越えることの重要性を教えてくれます。
2. 「結果整合性」をユーザー体験にまで落とし込んだUI/UX設計
非同期アーキテクチャを導入する際、我々の議論は「Outboxパターン」や「補正トランザクション」といった、システム内部の整合性をどう保つかという技術的な側面に偏りがちです。
ZOZO社の優れた点:
彼らは「在庫引き当てが非同期になる」という技術的な帰結を、「カート投入後にステータスをポーリングして結果を待つ」という具体的なユーザー体験(UX)にまで落とし込んで設計しています 。これは、アーキテクチャの制約をビジネスやユーザーに隠蔽するのではなく、制約を前提としてサービス全体を再設計するという、非常に成熟したアプローチです。
我々との比較:
我々は技術的な解決に集中するあまり、「ユーザーにどう見えるか」という視点が抜け落ちることがあります。この事例は、アーキテクトが向き合うべきはコードだけでなく、アーキテクチャがもたらす影響をエンドユーザーの視点まで含めて設計することの重要性を強く示しています。
3. 静的な設計ではなく「動的な負荷分離」という運用の知恵
我々はシステムの負荷分散を考える際、サーバーの台数を増やしたり、あるいは機能ごとにサービスを分割したりといった、比較的静的なアプローチをまず検討します。
ZOZO社の優れた点:
ZOZO社は、「過熱商品」というドメイン固有の動的な事象に着目しました。そして、その過熱商品のリストをアクセスログから自動でメンテナンスし、専用キューにトラフィックを動的にルーティングする仕組みを構築しました 。
我々との比較:
これは、設計(Design)と運用(Operation)が一体となった、まさにDevOpsやSREの思想を体現しています。アーキテクチャは一度作って終わりではなく、観測されたデータ(ログ)に基づいて自律的に振る舞いを最適化していく。この「自己学習・自己適応するシステム」という発想は、我々が進化するアーキテクチャを議論する上で、一つの到達点として目指すべき姿ではないでしょうか。
結論
ZOZO社の事例の卓越性は、単にモダンな技術パターンを採用した点にあるのではありません。ビジネス上の制約を深く理解し(Why)、複数の時間軸で解決策を立案し(How)、さらにはそのアーキテクチャがもたらす影響をユーザー体験や運用にまで広げて設計した、その思考プロセスの深さにあります。
我々の議論を、理論から現実世界での実践へと引き上げてくれる、非常に価値のある学びと言えるでしょう。