「変革のカタリスト」モデル
これは、何らかの変革をもたらそうとする者(カタリスト=触媒)が、チームというシステムに外部から干渉するのではなく、内部に入り込み、対話を通じて内発的な変化を促進するためのアプローチです。
チームの「不」に注目し、解消を目指す方策として全体最適へのアラインを目指す。Pain-Driven。
1. 対話と探求 (Dialogue & Exploration)
目的: チームの現在の状況、目指す方向、そしてそこに至るまでの課題や機会を、対話を通じて共に理解する。
活動: ワークショップ、ヒアリング、問題の深掘り(なぜなぜ分析)、課題の洗い出し(ペイン・ストーミング)、価値の定量化・可視化。
成果物: 共通認識の形成(チームが目指す姿と現状のギャップ、課題の構造化をまとめたもの)。
2. 変化の設計と仮説構築 (Change Design & Hypothesis Formulation)
目的: 探求フェーズで得られた共通認識を基に、目指す姿に到達するための具体的な変化(アクション)を設計し、それがどのような効果をもたらすかの仮説を立てる。
活動: 解決策のブレインストーミング、To-Beプロセスのモデリング、小さな成功を定義する実験計画の立案。
成果物: 変革仮説プラン(「もし○○すれば、△△という課題が解決され、□□という状態に近づくはずだ」という仮説と具体的なアクションプラン)。
3. 実践と検証 (Implementation & Validation)
目的: 設計した変化を小規模に実践し、仮説が正しかったかを共に検証する。
活動: パイロットプロジェクトの実施、新プロセスの試行、効果測定(定量的・定性的)。
成果物: 実験結果レポート(仮説に対する検証結果、得られた学び)。
4. ふりかえりと適応 (Reflection & Adaptation)
目的: 実験結果をチームでふりかえり、学びを組織の資産とし、次のアクションへと繋げる。
活動: レトロスペクティブ、成功パターンの横展開、新たな探求テーマの設定。
成果物: 組織の学習資産、次のサイクルへの改善計画。
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Pain-Drivenアプローチに至るまでの対話の軌跡
我々の対話は、理想論(あるべき論)と現場の現実とのギャップをいかにして埋めるか、という問いから始まりました。
1. 出発点:理想論の限界と「タコピー問題」
当初の議論は「自己組織化」でした。しかし、それをトップダウンで導入しようとすると、現場の文脈を無視した一方的な価値観の押し付けになりがちです。良かれと思って振りかざす正論が、かえって現場を苦しめる——我々はこれを「タコピー問題」と定義し、変革の難しさの根源にあると認識を共有しました。
2. 突破口:「触媒」としての関与
この壁をどう乗り越えるか。自身の体験から「外部から正論を語るのではなく、内部に入り込み、対話を通じて内発的な変化を促す」というアプローチの有効性を示しました。変革者は、チームの外に立つ評論家ではなく、中に入り込む「触媒(カタリスト)」であるべきだ、と。
3. 新たな壁:「組織の免疫システム」
しかし、この「触媒モデル」も万能ではありません。変化を「異物」と見なし、排除しようとする「組織の免疫システム」という強大な抵抗に直面します。特に、歴史が長く、既存のやり方が定着しているチームほど、この免疫反応は強力です。
4. 戦略の転換:「Gain」ではなく「Pain」から始める
ここで、我々の思考は大きな転換点を迎えます。免疫システムを無理やり突破しようとするのではなく、その抵抗を和らげ、むしろ味方につけるにはどうすればよいか?
その答えが、「Pain-Driven」アプローチでした。
「自己組織化すればこんなに良くなる(Gain)」という未来の理想を語るのをやめる。代わりに、「今、あなたたちを苦しめているこの痛み(Pain)を取り除きたくないか?」と問いかける。
デプロイへの恐怖、繰り返される手作業、障害対応の辛さ——。チームが日々感じている生々しい「痛み」こそが、変革への最も強力な内発的動機になります。我々が提案するアーキテクチャ変更やプロセス改善は、理想を実現するための手段ではなく、彼らの「痛み」を直接的に治癒させるための「処方箋」として位置づけられるのです。
このように、我々の対話は「理想をどう実現するか」という問いから、「まず、目の前にある痛みとどう向き合うか」という、より地に足のついた問いへと深化していきました。その結果として結晶化したのが、相手の文脈に深く寄り添い、具体的な「痛み」の解消から信頼関係を築き、変革の渦を巻き起こしていく——この「Pain-Driven」という戦略なのです。