白石忠志の著作における「反競争性」の概念について
『独禁法講義』や『独占禁止法』などの白石忠志の著作における「反競争性」の概念は、議論のための中立的な場を設定するために置いています。
市場における競争への影響がどれほどあれば独禁法違反を論ずるに足りるか(これ以外に正当化理由の要素があることにはここでは触れない)、ということについては、少なくとも、次のような種々の考え方があります。
価格、品質、数量などの競争変数が左右される状態となることが必要であるという考え方(原則論貫徹説)
その亜種として、その「おそれ」で足りるという考え方(流通取引慣行ガイドラインの「価格維持効果」)
他の事業者に対する排除効果が生ずることが必要であり、それで足りるという考え方(排除効果重視説)
(流通取引慣行ガイドラインの「市場閉鎖効果」と同じ)
以上のような様々な考え方がある中で、それらの議論・検討を中立的に行い得る場として「反競争性」という言葉を、いわば仮置きしているものです。
そのような言葉を置いておきさえすれば、例えば、「弊害要件は、正当化理由なく反競争性がある場合に成立する。」とシンプルに説明した上で、「反競争性」の具体的基準については様々な考え方がある、として、上記のような議論に進むことができます。
したがって、「白石は反競争性説である」などとして、競争変数左右などの考え方と対置する紹介などがあるとすれば、趣旨を理解していないもの、ということになります。