市場画定に関係する思考過程の整理
2021-05-20
次のような質問(とてもよい)を受けたので、整理してみました。
市場画定の判断枠組みについて頭が混乱してきてしまったのですが、「需要者の範囲の画定と供給者の範囲の画定」というレベルと、「商品役務の範囲と地理的範囲」というレベル、そして「需要の代替性と供給の代替性」というレベルの3つがどのようにリンクするのかがよくわかりません。
世界中で色々な人が市場画定をしているので、一概には言えませんが、以下は、日本の標準的な状況はだいたいこんな感じ、という意味での整理です。世界的にも、大差はないでしょう。
読むのが面倒なら、最後に「まとめ」があります。
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「需要者の範囲の画定」と「供給者の範囲の画定」
(そのなかで重要となる「需要の代替性」)
基本にあるのは、これです。
需要者の範囲の画定
供給者の範囲の画定
「供給者の範囲の画定」を行う際、「需要者からみて選択肢となる供給者か」が基準となります。「需要者からみて選択肢となる供給者か」を、短く、「需要の代替性」と呼びます。
そして、「需要者からみて選択肢となる供給者の範囲」が似通っているものを、まとめて1つのグループの需要者とし、似通っていない需要者から切り離すのが、「需要者の範囲の画定」です。
以上のプロセスを整理して「清書」すると、
「需要者の範囲の画定」→「供給者の範囲の画定」
となります。
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「商品役務の範囲」と「地理的範囲」
「需要者からみて選択肢となる供給者か」を考える際に、無限の切り口があり得ますが、それらの切り口の代表例として、まるでその2つしかない・その2つは必ず論ずる必要がある、かのように世界中の教科書に書かれているのが、「商品役務の範囲」と「地理的範囲」です。
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「供給の代替性」
(長いので閲覧注意。重要性は高くない。ほとほどでOK。)
そして、現時点で考えている市場(暫定)の範囲がαである場合に、近くに、下記のようなβがあれば、αとβをまとめて1つの市場とします。これを便宜上、「供給の代替性」と呼んでいます。
① βの供給体制をαに切り替えるのが容易である
② αの供給者の競争構造とβの供給者の競争構造とが似通っている
補足すると
上記①が、「供給の代替性」と呼ばれる由来です。
上記②は、普段は意識されておらず言及されませんが、αの競争構造とβの競争構造に大きな差があると、突如として言及され、1つにまとめるのを否定する根拠とされます(9k61第1段落)。
そうすると、「供給の代替性」の存在意義は、複数の市場をまとめて1つにして検討を効率化するところにあり、それしかない、ということになりますが、通常は、そのように言語化された思考抜きで機械的に、「需要の代替性」と「供給の代替性」がチェックされています。
「供給の代替性」は、原理的には、「商品役務の範囲」だけでなく「地理的範囲」などの切り口についてもあり得るはずですが、「商品役務の範囲」だけにおいて言及されることが多いように思われます。
考えてみれば、例えば「世界市場」の議論(9k238-239)は、「供給の代替性」的な議論を地理的に(しかも国境を越えて)行っているもの、ということになるのですが、そのように言語化したものは、世界中を見てもおそらくないと思います。(2021-05-20 08:25頃に白石が気づいた。)
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まとめ
需要者の範囲の画定
供給者の範囲が同じように画定されるような需要者をグループ化する作業
したがって、実際の思考過程では、「供給者の範囲の画定」との往復運動をしながら画定されていく。
それを「清書」すれば、
まず「需要者の範囲の画定」があり
次の段階(下記)で、画定された需要者からみて選択肢となる供給者かどうかをでみる
供給者の範囲の画定
「需要者からみて選択肢となる供給者か」(=「需要の代替性」)が基準
「商品役務の範囲」と「地理的範囲」は、「需要者からみて選択肢となる供給者か」を検討する際の代表的な2つの切り口
以上のような検討によって得られる市場(暫定)の近くに、似通ったものがあれば、くっつけて1つの市場とする。そのような作業に名前をつけて「供給の代替性」という。