実店舗による小売の事例における市場画定
質問
独禁法の市場画定は需要者からみて選択肢となる供給者の範囲で、であるにもかかわらず、実店舗による小売の事例で「店舗から10kmを地理的範囲として画定した」などとされているのはどのように説明できるのでしょうか?
これまでセミナーなどで口頭で説明したことはありましたが、まとめて書いたことがなかったので、この機会に書いてみることにしました。
まず、例として、2つ挙げます。どちらも同じ内容ですが、例が1つでないほうが説得力がある、という意味です。
https://gyazo.com/f5baac65a0c87f8617d3d227a64bc524
https://gyazo.com/18a4425f1e257b8453b71dd2e2228248
私としては、下記のように説明できると考えています。
まず、以下のことは、「公取委の担当者は自覚的に言語化していないかもしれないが、私なら、公取委の担当者の思考回路を以下のように言語化する」ということなので、そのような次元のものと受け止めてください。
以下については、下方に図も置いています。
市場画定(供給者の範囲の画定)は、需要者からみて選択肢となるかどうか(需要の代替性)で決まります。これは、公取委の企業結合ガイドラインでも認められている基本的考え方です。
実店舗による小売の事例では、「当事会社Aの店舗を利用することのできる需要者」という需要者が、観念されているはずです。(下図の①)
そして、そういう需要者からみれば、当事会社Aの店舗から一定距離(例えば10km)の範囲の他社店舗なら選択肢となる、と考えられています。(下図の②)
結論が店舗から半径10kmのとき、ここを何kmと考えていることになるかについては、種々の考え方があると思います。下記「ご指摘」関係。
そうしたところ、需要者の存在を自覚・言語化して市場画定を論ずる専門家は、今でも少ないのが実情です。9k47(下図の③)
そこで、当事会社Aの店舗から半径10kmの円を描いて、そこに当事会社Bの店舗があれば、それを検討対象市場とする、といったことが、上記の2つの例の各最終段落として書かれています。(下図の④)
以上のことの図解 ↓
https://gyazo.com/3f7312f005d4949302c12d7944ccd154
なお、そういう円内に当事会社Bの店舗がなければ、その地域には一方当事会社の店舗しかないということになり、その地域の競争に対して今回の企業結合は影響を及ぼしませんから(かりに競争の実質的制限という状態があっても、今回の企業結合行為との因果関係がない)、そのような地域には公取委は言及しない、ということになります。
もし、小売実店舗の事例問題が出たら? 以上のようなことを言語化している人は(私の知る限り)いませんので、
「当事会社の店舗から半径10kmを地理的範囲とする」でもいいでしょうし(公取委の事例集にそうとしか書いていないのですから)
かりに、上記を勘案していただけるなら、「需要者は半径10kmの範囲で買い回ると考えられるため、便宜的に、当事会社の店舗から半径10kmの範囲を地理的範囲とする」で十分だと思います。
なお、トリビアですが、企業結合事例集は、文書としての詰め具合(どれだけ厳密・具体的に書くかの程度)が、被疑事件の命令書ほどには高くありません。
したがって、ベルーナ/さが美で「店舗から3km〜20km」と言っているのは、例えば、「ee県ff市では交通が便利でないため3kmとしたが、gg県hh市では多くの需要者が自動車を所有しており幹線道路が便利なので20kmとした」(例は適当)といったことを端折ってまとめて書いているものと考えるのが、推測として真っ当であると思います。1つの市場について、市場の範囲は「店舗から3km〜20km」と述べたのでは、意味をなしませんから。
ご指摘
商圏がそのまま地理的範囲になるのがしっくりきません(もっと広くなるような気がします)。どう考えればいいでしょうか。scrapboxの図を使いながら敷衍します。商圏が10kmだとした場合、Aから半径10km以内にいう需要者が客の候補になります。その需要者がいる場所が別の事業者Eから半径10km以内にあるのであれば、AとEが10km以上離れていても、いずれもその需要者の買いまわる範囲に含まれるように思います。
shiraishi.icon
おっしゃることはよくわかります。一定距離の中に散らばっている人の全てについて、それぞれ、選択肢を考えて、出た結果を集積して濃淡を見て、というのが、原理的には、最も確実な方法です。ただ、実店舗による小売の事例は、通常、全国に検討対象市場が何百とあるので、全てについてそれをするのは難しいという事情もありそうです。そこで、ある程度の割り切りが必要となるのだと推測されます。ある程度の割り切りで、特に集中的に調べる必要のあるものを見つけ出し、そこにリソースを割くという方法になりそうです。下記のファミマ/ユニーの例(特に第2段階)は、それに当たるかもしれません。
以上の理解確認
使う武器
上記の点
プロセスとしての法的判断における中間段階としての市場画定
言葉
「CKS」=サークルKサンクス
ユニーグループ・ホールディングスの子会社
「CVSチェーン」=コンビニエンスストアチェーン
事例集74頁
https://gyazo.com/9dfb9edba47b0da36fd35ece07953f66
事例集78頁
https://gyazo.com/8c9b9161b3e799b4c751edd101fba7cd