垂直型企業結合・混合型企業結合の観点からの分析枠組み
垂直型企業結合と混合型企業結合は、異なるものであるかのように解説するのが「世界の通説」ですが、実は、少しだけ抽象度を上げれば、両者は共通の枠組みです。
記号は、下記の、『独禁法講義 第9版』の図を元にしています。公取委の企業結合ガイドラインの図の記号とも共通です。
「川上市場/甲市場」に書いたことと「川下市場/乙市場」に書いたことは、同じことの裏返しですが、念のため、2回書いています。
事案を分析する場合の枠組み
適用条文
どうでもよいが念のため確認する
企業結合行為
弊害要件・因果関係
市場画定
2つの市場を画定
川上市場/甲市場
川下市場/乙市場
川上市場/甲市場
懸念される行動が起こりやすくなるかどうか
顧客閉鎖/組合せ供給
BのXに対する取引拒絶等/Bの商品役務を主たる商品役務とみてAの商品役務を従たる商品役務とみる抱き合わせ等
情報入手
X → B → A
BとXが取引するため/BとXの両方を需要者が使うために接続性確保のための情報をB・X間でやり取りする必要があるため
(次のいずれかがあり得る)
顧客閉鎖/組合せ供給と情報入手が相まってXの排除
情報入手によるA・Xの協調的行動
懸念される行動が実際に起きた場合に弊害は起こるか
企業結合行為と弊害の因果関係
川下市場/乙市場
懸念される行動が起こりやすくなるかどうか
投入物閉鎖/組合せ供給
AのYに対する取引拒絶等/Aの商品役務を主たる商品役務とみてBの商品役務を従たる商品役務とみる抱き合わせ等
情報入手
Y → A → B
AとYが取引するため/AとYの両方を需要者が使うために接続性確保のための情報をA・Y間でやり取りする必要があるため
(次のいずれかがあり得る)
投入物閉鎖/組合せ供給と情報入手が相まってYの排除
情報入手によるB・Yの協調的行動
懸念される行動が実際に起きた場合に弊害は起こるか
企業結合行為と弊害の因果関係
「垂直型」とされる場合の図
『独禁法講義 第9版』222頁
https://gyazo.com/a471a6fe18f77db4615237b53f58870d
「混合型」とされる場合の図
『独禁法講義 第9版』224頁
https://gyazo.com/f18dfa1291ad8a9aa975b44b0f6bbfcf
企業結合ガイドラインの目次
https://gyazo.com/0d5fc792d3fc7e6d39202005949b284b
https://gyazo.com/398bd2c1796922ffcd88bd8b834c265c
ワンポイントコメント
企業結合ガイドラインについて
全体としては必要なことを整理してカバーしているが、「単独行動/協調的行動」という二分法を垂直型・混合型でも堅持しようとするあまり、情報入手に関する記述が、他者排除(公取委がいう「単独行動」)と協調的行動(公取委がいう「協調的行動」)の2箇所に分かれてしまっており、少しわかりにくい。
令和2年司法試験第1問の出題趣旨・採点実感について
情報入手が「協調的行動」のみに関係するかのように書いている点で、適切でない。公取委から公表される事例は、情報入手を他者排除の観点から検討しているものが多い。