司法試験平成28年第2問設問2について
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平成28年度司法試験経済法第2問設問(2)について質問がございます。
この設問につきまして、優越的地位濫用で答案を作成したのですが、出題趣旨・採点実感は拘束条件付取引で構成しており、優越的地位濫用で構成する余地への言及がありません。拘束条件付取引で構成する可能性があることは理解できるのですが、優越的地位濫用をメインで構成してはいけない理由はあるのでしょうか。
従業員に研修受講をさせてその間に派遣した事業者に予め予測できない損害を与える点は軽度な従業員派遣要請に類する行為と考えてることができ、必要機材購入は2条9項5号イにそのまま該当し、その他要件の充足性も肯定できると思われるため、疑問に感じております。
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ありがとうございました。難しい質問です。
まず、優越的地位濫用ではダメ、という理由はありません。基本的には、9k140コラムのような解説となります。9k140は他者排除的に論ぜられることの多い類型を念頭においており、平成28年第2問設問2は競争停止的に論ぜられることの多い類型を念頭においていますが、拘束によって取引先に対する優越的地位濫用という問題が起き得るのは同じです。
ただ、垂直的制限を優越的地位濫用として構成し得る可能性は、論理的にあり得ることは一部で知られていましたが、試験委員を含む独禁法関係者全員に知られていたかというと定かではなく、現に、9k140で引用している阿寒農業協同組合事件は平成29年10月です(司法試験問題は平成28年)。そういったことも、出題趣旨・採点実感に表れているかもしれません。阿寒よりあと、プラットフォーム事業者による出品者に対する優越的地位濫用が大きな話題となるようになった今なら、逆に誰もが優越的地位濫用を強調する可能性もあります。
優越的地位濫用で検討するとして、問題文には、研修参加費用や機材購入費用を誰が負担するか、小売業者が消費者に転嫁することは容易か、などについて明示的に述べていないように見えますので、そのあたりを補いながら検討する必要があります。
以上のように、優越的地位濫用ではダメ、という理由はありませんが、他方で、問題文の流れとして、販売方法拘束による小売業者間の競争停止を論じさせようとしている「雰囲気」は感じられます。したがって、それに一定程度答えておくほうが「無難」であるとは言えそうです。言い換えれば、優越的地位濫用「だけ」を論じたのでは、少し、足りないかもしれません。
(もちろん、そのように複数の見方があり得るなかで、阿寒のように、最終的には優越的地位濫用「だけ」が選ばれた事例はあるわけですが、検討過程では、公取委も複数の可能性を検討したはずです。)