北陸新幹線違約金条項
(東京地判・東京高判とも、D1-Lawに掲載)
事案
刑罰があれば違約金10%(設計変更による増額分を含む)
未払代金を違反者ら(原告)が請求したところ、発注者(被告)は違約金を相殺して支払
東京高判平成29年7月20日・平成29年(ネ)第957号〔北陸新幹線違約金条項〕
違約金債権の行使が権利濫用に当たるか
東京地判の理由付けに加え、「控訴人らは自らの判断であえて故意の不法行為である本件談合に及んだものであること」を追加して強調
過失相殺の有無
上記と同様、故意の不法行為を追加して強調
設計変更による請負代金増額分も違約金条項の対象となっていることについて
東京地判の理由付けに加え、「本件違約金条項は、被害者が負う損害の有無及び額に関する立証の負担を軽減し、損害の填補を容易にするために損害賠償の予定を定めたものと解されるのであり、仮に、設計変更による請負代金増額分のうち本件談合による影響を受けているのがどの部分かを逐一精査しなければならないとすれば、本件違約金条項の上記趣旨に反することとなる」
違約金条項が優越的地位濫用・暴利行為により無効となるか否か(控訴審での追加主張)
「本件違約金条項は、国等の発注機関が行う工事において一般的に設けられている条項であることは公知の事実であるから……正常な商慣習に照らして不当なものとはいえない。」
「上記事実関係の下においては、本件違約金条項を含む本件各請負契約が、控訴人らの窮迫、軽率又は無経験に乗じて締結されたものであるとはいえない。したがって、本件違約金条項が暴利行為に当たり無効であるとはいえない。」
東京地判平成29年1月30日・平成27年(ワ)第8502号
違約金債権の行使が権利濫用に当たるか
(以下引用)
しかしながら、原告らは、本件談合を行ったことにつき、独占禁止法違反(同法95条1項1号、89条1項1号、3条違反)の罪で有罪判決が確定した者であり、独占禁止法は、談合等の不当な取引制限をした事業者に対し、無過失の損害賠償責任を定めている(同法25条、3条)。この趣旨は、同法が、公正かつ自由な競争を促進することをもって、一般消費者の利益を確保すると同時に、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的としており、同目的達成のために同法が禁止する行為を事業者が行ったときは、その行為自体が同目的の達成を阻害する強い非難に値する行為であるとして、事業者の過失の有無にかかわらず、被害者の受けた損害を回復させ、事業者に談合等の不正行為により享受した利益を保持させないことにより、同法違反の行為に対する抑止的効果を挙げようとするものである。そして、本件違約金条項は、上記規定の趣旨を受けた上で、談合等が行われた場合に損害の有無及び額の立証が困難であることに鑑み、被害者が負うその立証の負担を軽減し、損害の填補を容易にするために、損害賠償の予定を定めたものと解される。
このような独占禁止法及び本件違約金条項の趣旨及び目的からすると、本件各違約金債権の行使が信義則違反又は権利濫用に当たるといえるのは、同法が談合等の不当な取引制限をした者に対して負わせた無過失の損害賠償責任を排除するほどの不公正が、発注者である被告にあるといえる場合に限られると解すべきである。
この点から上記(1)認定の諸事実をみると、これらの諸事実は、いずれも、被告が原告らによる本件談合を防ぐことができなかったという単なる過失を基礎付けるものにすぎず、これらの諸事実の存在をもって、被告による本件各違約金債権の行使が信義則違反又は権利の濫用に当たるということはできない。また、後記3(2)の事実の有無は、上記判断を左右するものではなく、他に、被告による本件各違約金債権の行使が信義則違反又は権利の濫用に当たることを認めるに足りる事実の主張はない。
過失相殺の有無
(以下引用)
そして、原告らの主張によっても、被告職員が本件談合そのものに関与した事実があるというわけではない。また、本件全証拠によっても、被告職員が、図利目的で予定価格に関する情報を教示したとか、情報の教示によって不法な利益を取得したとも認められない。
これに対し、原告らは、受注価格の低落を防止して安定的な利益を確保する意図をもって、あえて独占禁止法に違反する行為である本件談合に及んだ上、本件談合により獲得した受注予定事業者としてのメリットを最大限に生かすため、予定価格に最も近い金額で落札するという強い動機の下、被告職員に接触して、予定価格に係る情報提供を引き出したものと認められる(前記第2の1(2)イ、(4)、第3の1(2)アないしウ)。
これらの事情の下では、本件において、本件各違約金債権につき過失相殺を認めることは、上記2(2)で説示した、独占禁止法が談合等の不当な取引制限をした事業者に対して無過失の損害賠償責任を負わせた趣旨及び本件違約金条項の趣旨に反し、許されないというべきである。
設計変更による請負代金増額分も違約金条項の対象となっていることについて
(以下引用)
(1) 原告らは、本件違約金条項において「変更後の請負代金額」が違約金算定の基礎とされるのは、価格形成が談合等の競争制限的効果による影響を受けていると認められる場合に限られるとし、価格形成に本件談合の影響が入り込む余地のない設計変更による請負代金増額分については、違約金算定の基礎から除外すべきであると主張する。
しかしながら、本件違約金条項には、本件各請負契約の締結後、請負代金額の変更があった場合は、変更後の請負代金額を基礎として違約金を算定する旨が明記されていること(前記第2の1(3)エ)からすると、原告らと被告は、原告らが主張するような談合等が請負代金額の決定に及ぼす具体的な影響の有無にかかわらず、変更後の最終的な請負代金額を基礎として違約金を算定する旨合意したと解すべきである。
(2) この点に関し、原告らは、本件違約金条項が、談合等の競争制限的効果によって受注者が不当に得た利益を発注者に返還させることを目的とし、専ら損害額等の立証を軽減する趣旨で損害賠償額の予定を定めたものであることを根拠として、独占禁止法25条に基づく損害賠償請求における損害の算定方法と同様に、本件談合の影響を受けることのなかった設計変更による請負代金増額分については違約金算定の基礎に含めるべきではないと主張する。しかし、設計変更による請負代金増額分が本件談合等による影響を受けているか否かは必ずしも明らかではないことからすると、その影響の有無によって違約金額が定まると解することは、本件違約金条項が被害者の立証の負担を軽減する趣旨で損害賠償額の予定を定めていることに反し、相当でないというべきである。
(3) したがって、本件違約金条項を適用するに当たり、違約金額算定の基礎から設計変更による請負代金増額分を除外すべき理由はない。