令和4年予備試験「経済法」
問題
法務省:司法試験予備試験
令和4年予備試験経済法の問題を使って独禁法の基本的な理解を確認する
次の画像の下にYouTube動画のまとめメモがあります。
https://gyazo.com/77a5ad8848ed237edbb7b14c3fb65850
まとめメモ
以下は、YouTube動画の成果を階層的アウトライン形式でまとめたものです。
答案として推奨されるようなものかどうかはわかりません。
適用条文:16条1項1号(設問で明示)
「会社は」(16条1項柱書き)
譲り受けるのはX社であるからX社。X社は会社。
「他の会社の事業の全部又は重要部分の譲受け」(16条1項1号)
「他の会社」
Y社。Y社は会社。
「事業」
甲の製造販売事業。
「重要部分」
設問で明示。
「譲受け」
X社がY社から譲り受ける。
「一定の取引分野」(16条1項柱書き)
需要者は乙の供給者(乙の製造販売業者)
他には需要者はいない(甲の用途は乙のみ)
商品範囲
大型甲と小型甲で別々の市場となるか否かという視点で検討する
大型甲の需要者(据付け型乙の供給者)からみて
乙の部品として甲に代わるものはない
小型甲とは
需要の代替性がない(動画中の板書①)
供給の代替性がない(動画中の板書④)
小型甲の需要者(モバイル型乙の供給者)からみて
乙の部品として甲に代わるものはない
大型甲とは
需要の代替性がない(動画中の板書②)
供給の代替性がない(動画中の板書③)
地理的範囲
いずれの甲についても世界全体
小括
大型甲の市場
需要者を据付け型乙の供給者とし、商品範囲が大型甲で地理的範囲が世界全体であるような市場
(需要者を世界全体に所在する据付け型乙の供給者とし、供給者を世界全体に所在する大型甲の供給者とする、大型甲の市場)
小型甲の市場
需要者をモバイル型乙の供給者とし、商品範囲が小型甲で地理的範囲が世界全体であるような市場
(需要者を世界全体に所在するモバイル型乙の供給者とし、供給者を世界全体に所在する小型甲の供給者とする、小型甲の市場)
shiraishi.icon 以下では、違反なしとする場合には、不成立の要件のみを書けばよいのかもしれませんが、念のため、全て書いておきます。答案でどうすべきなのかは、存じません。
大型甲の市場
「競争を実質的に制限することとなる」(16条1項柱書き)
競争変数が左右されることとなるか否か
なる
企業結合後のX社市場シェア90%。
他の供給者はA社のみで10%。縮小中。供給余力なし。
新規参入なし
需要者による牽制力について記述なし
正当化理由がないかどうか
ある
経営状況(業績不振)に関する企業結合ガイドラインの2条件を満たす
「により」(16条1項柱書き)
満たさない
本件計画を実行した場合
Y社の客はX社の客となる
本件計画を実行しなかった場合
Y社の大型甲の事業は撤退し、Y社の客はX社またはA社から選ぶが、A社は供給余力がなく新規の客を受け入れることができないので、Y社の客はX社の客となる
結論
「競争を実質的に制限することとなる」不成立(正当化理由がある)、または、「により」不成立、を述べて、違反なしと結論づける
小型甲の市場
「競争を実質的に制限することとなる」(16条1項柱書き)
競争変数が左右されることとなるか否か
ならない
(X社とY社の小型甲の事業は完全に一体化するので内発的牽制力には触れなくてよい。)
他の供給者による牽制力がある
協調的行動なし(活発な競争)
A社・B社・C社に供給余力
(新規参入なしではあるが)
需要者による牽制力がある
正当化理由
正当化理由ありとすべき要素がない
「により」(16条1項柱書き)
(競争変数左右が不成立であるので論じようがなく、触れる必要がない。)
結論
違反なし
まとめメモのメモ
違反である、違反でない、と結論づけず、違反の可能性が高い、低い、などなどであっても、その理由(検討過程)が適切に表現されていれば、よろしいのではないかと思っています。(私見)
本当に大型甲について正当化理由があると言ってよいか、因果関係がないと言ってよいか、など、細かくは様々な諸論があり得ると思われます。そのあたりは是非、考えてみてください。ここでは省略します。
上記のように、大型甲については競争変数は左右されることになると思われます。企業結合ガイドラインは、2条件を満たせば事業能力の小さい者を吸収するのであるから問題はないかのような記述となっていますが、これに対する私の疑問を説明する一つの具体例となっています。
『独禁法講義』にも書いているように、「単独行動による競争の実質的制限」と「協調的行動による競争の実質的制限」とを区別する必要はなく(むしろ有害)、上記のように、協調的行動が起きそうか否かを含め、総合判断で結論を出せばよいと考えています。私の頭の中では既に当たり前になっており、動画で解説するのを忘れました。
法令用語では、名詞なら「譲受け」、動詞なら「譲り受ける」、です。答案で「譲受を」「譲受けて」などと書いても例えば私の試験では減点材料とはしませんが、通常の文書作成では、見る人が見たら印象が
違うことは否めないと思われます。