京セラ対ヘムロック(太陽電池グレードポリシリコン)
太陽電池グレードポリシリコンに関する訴訟
平成30年10月23日 最高裁で上告棄却・上告不受理
https://gyazo.com/90a85ba3e869a2d13f78924e2f6f9eac
平成29年10月25日 東京高判
東京高判平成29年10月25日・平成28年(ネ)第5514号〔京セラ対ヘムロック〕
D1-Law登載
1審判決を是認(却下判決を是認する控訴棄却判決)
1審判決の理由付けを改めながら引用したが、日本の優越的地位濫用規制は対消費者でも適用される旨の傍論は、削って引用した。
shiraishi.icon 本判決が、その点を否定したというよりは、この点が控訴審段階で争点となったところ、1審判決のこの部分は結論に必ずしも影響のない傍論であったので削った、ということではないかとも推測される。
ミシガン州法の「非良心性の法理」が、日本の優越的地位濫用規制と大きく違うか等について、双方が提出した米国専門家意見書を参照しつつ分析。
shiraishi.icon別途調査したところ、「非良心性の法理」は「unconscionability」と呼ばれているようである。
平成28年10月6日 東京地判(差止請求であり民事8部)
東京地判平成28年10月6日・平成27年(ワ)第9337号〔京セラ対ヘムロック〕審決集64巻497頁
金融・商事判例1515号42頁
LEX/DB登載(2017-04-23確認)、D1-Law登載(2017-04-27確認)。
下記理由付けにより請求却下。
国際的専属裁判管轄の合意も、「はなはだしく不合理で公序法に違反する」場合には例外的に無効になるものと解されるとするチサダネ最高裁判決(最高裁判所昭和45年(オ)第297号同50年11月28日第三小法廷判決・民集29巻10号1554頁)に照らした判断
(以下、鈎括弧は付けないが、後記(カ)まで、引用である。)
(イ)「はなはだしく不合理で公序法に違反する」といえるか否かの判断は厳格にされるべきであることは,上記のとおりであるところ,もともと複数の国において,同じく一定の類型の行為は好ましくないため抑止すべきであるとの価値判断に基づいて法規範を設ける場合においても,具体的にいかなる要件の下で,いかなる手続を経て,どのような形で当該行為を抑止するか等については,各国の国民の意識や法文化等に応じて様々な選択肢があり得るのであり,そのような相違があること自体をもって,ある国の法制度が我が国の公序に反すると直ちにいうことはできない。かかる観点からは,一定の訴訟事件について,日本の絶対的強行法規の適用を排斥する結果を生じさせる国際的專属裁判管轄の合意が「はなはだしく不合理で公序法に違反する」と解し,かつ,日本の独禁法が絶対的強行法規に当たると解する立場をとるとしても,そのような理由により当該合意が無効となるのは,単に当該合意における専属管轄裁判所において,日本の独禁法が適用されないというだけでなく,当該訴訟で主張される事実について,当該専属管轄裁判所が準拠する全ての関連法規範を適用した場合の具体的な適用結果が,日本の裁判所が準拠する独禁法を含む全ての関連法規範を適用した場合の具体的な適用結果との比較において,独禁法に係る我が国の公序維持の観点からみて容認し難いほど乖離したものとなるような場合に限られると解するのが相当である。
(ウ)これを本件についてみるに,上記認定事実によれば,本件各管轄合意上の専属管轄裁判所とされている米国ミシガン州東部地区連邦地方裁判所は,契約条項に「本質的に」又は「一見して(明らかに)」独禁法違反がある場合には,その主張が抗弁として認められ得ることを前提に,Z7や原告は,「本質的に」又は「一見して(明らかに)」独禁法違反があることの主張立証ができていないと判示していることが認められる。その際,「本質的に」又は「一見して(明らかに)」との限定が加わることにより,独禁法2条9項5号ハ所定の優越的地位の濫用の各要件について要求される主張立証の範囲や程度が,日本の裁判所で審理される場合に比して,具体的にどの程度増大するのかは明らかでなく,かかる限定が加えられているとの一事をもって,日本の独禁法の適用が一般的に期待できないとまで断ずることはできないものというべきである。
その点を措くとしても,上記認定事実によれば,米国ミシガン州の裁判所は,契約又はその条項がその締結時において不公正なものであったと判断した場合,その執行を拒否することができるとされていること(いわゆる非良心性(不公正)の法理),契約又はその条項が不公正とみなされるのは,〔1〕手続的不公正さ(一方の当事者が当該条項を受け入れること以外の現実的な代替手段を有していない場合),及び〔2〕実質的不公正さ(契約条項が著しく不均衡で実質的に不合理である場合等)の双方を満たす場合であると解されていることが認められるところ,独禁法2条9項5号ハ所定の優越的地位の濫用は,「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して」,「正常な商慣習に照らして不当に」,「取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定」等することであるが,これらの要件は,実質的にみて,米国ミシガン州において契約又はその条項が不公正と判断されるための上記要件と相当程度類似していることが認められる(少なくとも,米国ミシガン州の裁判所において契約又はその条項が不公正と判断される事案の範囲と,日本の裁判所において優越的地位の濫用による契約締結であると判断される事案の範囲との間に,重要な差異があることを認めるに足りる証拠はない。)。
(エ)これに対し,原告は,いわゆる非良心性の法理によって救済されるのは圧倒的に消費者であって,商人や会社を保護するために当該法理に依拠することには消極的であるとされている旨主張する。しかし,弁論の全趣旨によれば,企業間取引について非良心性の法理が適用された裁判例も複数あると認められる(被告らの平成28年2月29日付け第4準備書面18頁参照)上,行為の相手方が会社等ではなく消費者であることにより,非良心性の法理の要件該当性が認められやすくなること自体は,独禁法上の優越的地位の濫用についても同様であると解されるから,原告の上記主張は上記判断を左右するものとは解されない。
(オ)その他本件全証拠によっても,本件で主張される事実について,本件各管轄合意上の専属管轄裁判所である米国ミシガン州の裁判所が準拠する全ての関連法規範を適用した場合の具体的な適用結果が,日本の裁判所が準拠する独禁法を含む全ての関連法規範を適用した場合の具体的な適用結果との比較において,独禁法に係る我が国の公序維持の観点からみて容認し難いほど乖離したものとなると認めることはできない。
(カ)よって,この点に係る原告の上記主張を採用することはできない。
日本の独禁法解釈論の観点では、東京地裁民事8部が前記(エ)において次のように述べていることも興味深い。
「行為の相手方が会社等ではなく消費者であることにより、非良心性の法理の要件該当性が認められやすくなること自体は、独禁法上の優越的地位の濫用についても同様であると解される」