データと競争政策に関する検討会報告書
公正取引委員会競争政策研究センター「データと競争政策に関する検討会報告書」(平成29年6月6日)
shiraishi.iconこの分野に関する諸問題をまとめて掲げ、関心を喚起をした点で意義がある。法律一般論の観点からは、基本的に、既存のガイドラインなどの枠内で言える内容にとどまっている。
「検討の過程では、有識者や関係事業者からの意見も受けつつ、事務局である公正取引委員会事務総局の意見をも参考としているが、本報告書は飽くまで本検討会の見解を示すものである。したがって、公正取引委員会の正式な見解を示すものではない。」(目次の頁)
29頁※4
無料市場の既存例として、次のものを挙げる。
平成26年度企業結合事例8〔KADOKAWA・ドワンゴ〕の「無料動画配信事業」
shiraishi.icon品川企業結合課長の解説が引用されているが、原文を見ると、そのようなことは書かれていない。事例集そのもののほうが、報告書の言いたいことに近いことが書かれている。ただ、この事例で「無料動画配信事業」が「画定」されたのは、それ自体が検討対象市場になったというのではなく、ドワンゴとKADOKAWAが競争関係にあるのが「有料動画配信事業」であるため、これを検討対象市場とする際に、関係のないものを除外するために、除外する部分に「無料動画配信事業」という名前を付けたという色彩が濃い。
グーグル・ヤフー(平成22年12月2日)の「インターネット検索サービス及び検索連動型広告の分野」
shiraishi.icon原文を見ると、「インターネット検索サービス」と「検索連動型広告」は別の問題とされている。「検索連動型広告」の需要者としては広告主が想定され議論されており、無料市場の例といえるのは「インターネット検索サービス」に限定されるように思われる。
独占禁止法3版150頁(無料の営みでも問題になり得ることは拙著等がかねてから述べてきていること。結論に反対であるわけでは全くない。念のため。) 37〜38頁※3
shiraishi.icon新規取引における優越的地位濫用について微妙な記述。この複雑な表現は、内部に種々の意見があるからであろうと推測される。ただ、新規の時点では売上高がないため取引依存度がない、という指摘は単なる考慮要素に過ぎないものを要件であるかのように論じている点で疑問。
38〜39頁
shiraishi.icon優越的地位濫用の相手方に消費者を含むか、という論点について、注も含めて二転三転しながらも(内部に種々の意見があるからであろうと推測される)、最後に、「ただし、当該行為によって競争秩序に悪影響を及ぼすおそれがある場合には、独占禁止法の適用も考えられる。」としている。
独占禁止法3版421頁 拙著等がかねてから述べてきたことであるが、それについて公取委の関係の文書が触れた一例。ただし、上記引用のように、公取委として正式に認めたわけではないとされている。