Spring2020 違反要件総論
2020-01-27
前回の補足
違反要件の構造(前回済み)
最近の「新しい議論」の位置付け(前回済み)
違反要件総論の柱
反競争性(抽象的基準)
市場
市場の概念
市場画定
反競争性(具体的基準)
(市場画定と反競争性の総合的理解)
正当化理由
因果関係
新幹線飛行機問題(サブマーケットの画定)
personalised pricing
事業者
人材と競争
国際事件と競争法
概要
効果理論
自国所在需要者説
具体的諸論点
世界市場
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前回の補足
平成21年改正
昭和30年代以後の違反要件の唯一の改正。これも、違反の範囲を変えておらず、一部の不公正な取引方法を課徴金対象にするため法律で完結的に書ききるようにした改正
規定が極めて複雑となった
http://shiraishitadashi.jp/_presen/keynote/UTP.jpeg
独禁法の基本条文/私的独占・不公正な取引方法の条文
令和元年改正後独禁法全条文(この際あわせて再掲)
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違反要件の構造
3つに分類できる
行為要件(を充足する行為)
弊害要件(を充足する弊害)
因果関係(行為と弊害との間の)
行為要件
各論(次回以降)で。
弊害要件
基本的には各類型に共通
総論として取り扱う
しかし各論でも触れる
具体例で何度も上塗り
類型ごとに例外や特殊発展理論がある
弊害要件の構成要素
市場(において)
反競争性(があり)
正当化理由(がない)
因果関係
基本的には各類型に共通
総論として取り扱う
弊害要件と同様、各論でも触れるかもしれない。
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最近の「新しい議論」の位置付け
「人材と競争」
「消費者優越」(消費者に対する優越的地位濫用)
など
種々の新たな議論のある独禁法でも、基本的な考え方は変わっていません。「これは独禁法の問題にならないのか」と訊かれ「誰も議論しないだけ」「当局が取り上げないだけ」と答えていたものに光が当たっているだけです。光を当てすぎて当局自身が回らなくなり新たな謎ルールが生成することもあります。
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「競争自体が減少して、特定の事業者又は事業者集団がその意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態を形成・維持・強化することをいう」(公取委のガイドラインからの引用)
自分の価格等を短期的に左右することは誰でもできる。
「価格、品質、数量、その他各般の条件」の総称
当初は、ほとんど誰も使っていなかった。
最近、プライバシー保護の程度や表現の自由の程度なども自然に読み込める抽象概念として定着。
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ある需要者に商品役務を供給しようとする供給者の営みを「競争」と呼び、そのような競争が行われる場を「市場」と呼ぶ。
上記は売る競争。買う競争の場合は、上記の裏返し。あくまで説明の簡素化のため、以下では売る競争のみに言及する。
抽象概念であり、物理的なハコモノは必要ない。
日本独禁法2条4項は、そのあたりをうまく表現している。
この法律において「競争」とは、二以上の事業者が……次に掲げる行為をし、又はすることができる状態をいう。
一 同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給すること
二 同一の供給者から同種又は類似の商品又は役務の供給を受けること
需要者 customer
消費者との異同
商品役務 product/service
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特定の事案における市場の範囲を見定める作業
「definition」と言っているが、市場の概念を一般的に「定義」するという意味ではない。上記「市場の概念」のような考察は、ほとんど行われない。
(見出し「market definition」以下のみを軽く読むだけで結構です。)
人為的に定めるのでなく(国境の譬え)
既にあるものを見極める(海岸線の譬え)
「関連市場」は英和辞典に影響された悪訳(白石私見)
例えば、検討対象市場の川上市場の商品を「related product」というのが普通
需要者からみて選択肢となる供給者の範囲
次の2分類がある、というのが世界の教科書の説明
需要者とはどのような人たちか(需要者の画定)
514頁だけで結構です。
清書すると、需要者の画定が先。
「○○を需要者とし、□□を供給者として、☆☆を供給する市場」
「地理的範囲」にも2層ある
small but significant and non-transitory increase in price
small but significant and non-transitory decrease in quality
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(価格等の)競争変数が左右される状態
よくある議論の整理
→ 区別できない。
重要なポイント
能力 ability
意欲 incentive
内発的牽制力
少数株式取得、業務提携、など、当事者が一体化しない場合に必要な議論
共通化割合
他の供給者による牽制力
供給余力(能力)
協調的行動の傾向の有無(意欲)
需要者による牽制力
供給者との交渉力(能力)
値上がり購入分の川下への転嫁能力(意欲)
その他の牽制力
例えば、後出の新幹線飛行機問題
市場シェアと市場集中度指標
A社=40%、B社=30%、C社=20%、D社=10%、の場合
HHI=3000
C社とD社が合併したときのHHI=3400 (400の増加)
決定的な要素ではないが、目安になる。
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市場画定と反競争性の総合的理解
市場画定と反競争性成否判断は、一部で重なっている。
市場画定不要論
市場画定不要論への回答
市場画定は、プロセスとしての法的判断(弊害要件成否の判断)の中間段階
大量の企業結合事案を絞り込むため、市場シェアを計算し、HHIを計算して、問題の起こりそうにないものを落とす(早期にクリアランスする)
市場画定では狭く明確に絞っておき(事例を多めに拾っておき)、そこで一旦は無視した考慮要素を反競争性成否の判断の段階で考慮する、ということが行われる。
p21, pp23-24 鋼矢板
「コンクリート壁工法」等が2度出てくることを確認
p28, pp30-31 熱延鋼板
「中国・韓国」等が2度出てくることを確認
需要者は誰か、を画定する必要はなお残る。
保護対象は誰か
どこでUPPが起こるかを調べればよいか、わからない。
企業結合規制ならよいが、非企業結合 non-merger では課徴金・罰金をかけなければならず、事案の規模を把握する必要がある。 ━━━━━━━━━━━━
正当化理由
正当化理由の判断基準
目的が正当
手段が正当(必要な範囲内)
反競争性の程度を上回る
「目的の正当性/手段の正当性」という枠組みがわかりやすい例
正当な目的の諸種
不適格な事業者や商品役務の排除
知的創作や努力のためのインセンティブ確保
普通の特許の場合
物理的・技術的・経済的な困難
効率性向上・競争促進効果
共通リフト券
実現可能性
需要者への還元
公共性
正当化理由としての破綻企業論
因果関係論としての破綻企業論
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因果関係
日本では要件の存在を否定する意見が強かったが、今では事例が増えている。理論体系として明示的に受け入れるものが少ないだけ。
並行行為
並行的排他的行為
滝澤紗矢子『競争機会をめぐる法構造』(有斐閣)
並行的廉売行為
並行的企業結合
特殊条件
もともと弊害要件が満たされており、今回の行為がそれを強化するわけではない場合
競争を期待できない場合
市場(需要者)が小さすぎる場合
近い将来はいずれにしても弊害要件を満たす状況になる場合
因果関係論としての破綻企業論
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新幹線飛行機問題 時間の関係で大幅に省略の見込み
検討対象市場のなかにサブマーケットが画定されるか、という形で、昔から議論されている。
米国
以下のとき、サブマーケットを画定
供給者が特定の需要者を他から区別して価格設定できる discriminatory pricing
他の需要者からの横流し arbitrage がない
「新幹線飛行機問題」は、白石が発案した例
鉄道会社は、「飛行機に乗れず新幹線しか選べない需要者」を他から区別して価格設定できるか。できないなら「新幹線だけの市場」は成立しない、というのが米国流の議論。
白石
それは、「新幹線だけの市場」が成立しないのではなく、「新幹線だけの市場」は成立するがそこで反競争性が発生しない、ということなのではないか。
NTT東日本が、「FTTHサービスしか選択肢としないという需要者」を他の需要者から区別できないことを前提としつつ、
FTTHサービスが、「隣接市場を侵食しつつ急速に拡大している」ことを根拠に、「FTTHサービスしか選択肢としないという需要者」だけを念頭に置いた市場を検討対象市場としても同事件のNTT東日本の行為によって反競争性は発生した旨の解説。
personalised pricing
特定の需要者を他から区別して価格設定をすることが容易となっているのではないか?
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事業者
消費者以外の全てを指す、と考えておけば足りる
人材と競争★
第1回の最後にご質問のあった「人材と競争」の「謎ルール」も、このコラムに。
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国際事件と競争法
概要
通常の説明は純ドメ事例が念頭
「国際事件と違反要件」と「国際事件とエンフォースメント」
以下は主に「国際事件と違反要件」
国際法と国内法
国内法の解釈・運用のなかで国際的コンセンサス内容を勘案
世界競争法・世界競争当局、は無い
日本:競争法と競争法以外の温度差
例:個人情報保護法
以下の説明のための図
https://gyazo.com/5f1ba0b48f5e934615b12961ddc55925
日本
遅くとも平成初年から暗黙の前提となっていたが、
3段階のうちリンク先画像の①
自国所在需要者説
「自国へのeffects」「我が国市場への影響」の具体的内容の言語化
DOJ statement (1992)
白石 (1996)
3段階のうちリンク先画像の②で自国所在需要者説を唯一の例として掲げ、実際にその事案において、これに依拠して結論を得た(③ → 後述)。
具体的諸論点
需要者機能の分散の場合
最高裁判決の③
一般論を避け、完全な事例判決とした。
転々流通
国際市場分割
日本:自国供給者にしか課徴金を課さない
違反要件:自国需要者の部分を切り取って法的に評価する
課徴金:自国需要者には自国供給者しか供給しないという合意で、しかも、現実売上額に課すから、外国供給者に対する課徴金はゼロになる。
EU:外国供給者にも課徴金を課する
違反要件:言語化されていない
課徴金:現実売上額でなく、想定売上額に対して課する
国内の想定売上額に対してしか課さない
漠然と広い違反要件論がここで調整されている
世界市場
外国需要者も含む市場(?)
国内需要者に向けた市場での違反の成否と一致するとき「世界市場が成立する」と言われる。
企業結合規制には課徴金がない。
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2020-01-27