2025-06_01
#セミナー資料
MCデータプラス排除措置命令書+東京地裁執行停止事件決定書
排除措置命令書
PDF
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2024/dec/241224_nijo_4.pdf
HTML
https://snk.jftc.go.jp/DC005/R061224R06J11000020K
執行停止申立て東京地裁決定
https://snk.jftc.go.jp/DC005/R070327R06G10005021K
PDF(決定書スキャン)
https://snk.jftc.go.jp/pdf/R070327R06G10005021K/r6%28%E8%A1%8C%E3%82%AF%295021.pdf
Mt.Rainierのブログ
https://techlawyer.hatenablog.jp/entry/2025/05/27/004048
東京地裁決定後に執筆された、主に個人情報保護法の観点からの詳しい解説
このブログ記事のおかげで、以下のような理解でよいのではないかということについて一定の確信を持てるようになった。
登場人物・言葉の整理
労務安全サービスの供給者・本件行為者
MCデータプラス(以下便宜上「MCDP」)
労務安全サービスの競争者(他の供給者)
シェルフィー
リバスタ
需要者=建設業者(命令書・決定書において「ユーザー」)
建設業者における作業員 = 個情法上の「本人」
労務安全サービスのサービス名
MCDP = グリーンサイト
シェルフィー = Greenfile.work
リバスタ = Buildee労務安全
公取委の事件解決イメージ
「(作業員→)建設業者→MCDP」と受け渡された作業員の個人データについて、
「MCDP→建設業者→競争者」と受け渡すことを可能としようとしている。
要約
一般指定14項
正当化理由の有無を除けば、要件は満たしそうである(行為要件・排除効果)。
正当化理由……「個情法遵守」で正当化されるか
個情法27条の構造
個人データを「第三者」に「提供」の場合は本人同意が必要(27条1項)
「第三者」に該当しないとされる場合
委託(27条5項1号)
共同利用(27条5項3号)
「提供」に該当しないとされる場合
クラウド例外(個情委Q&A 7-53)
排除措置命令書は個情法上の共同利用に言及しているが、本件に無関係の議論を誘発するだけの余事記載ではないか。
当事者が共同利用といえば当然に該当するわけではない
共同利用の目的外利用とされても他の個情法順守策がある
東京地裁決定によれば、次のようなことである。
「MCDP→建設業者」の情報受け渡しについて本人同意あり
「建設業者→競争者」の情報受け渡しについて本人同意あり
そうであるとすれば、
行訴法25条の執行停止の要件も満たさないが、
独禁法上の正当化理由がないということにもつながる
本人同意に関する東京地裁決定の判断については、
異論もあるかもしれない。
本案の裁判体は、変化したはずである。
一部執行停止となった部分について
排除措置命令書主文に「ユーザー自らが登録した当該作業員情報を」と書いてあるので、
これは、同じ作業員について他のユーザー(B)が書き換えた場合は含まないと解釈され、
そうであるとすれば、他のユーザー(B)が書き換えたものを元に戻してユーザー(A)に渡すのはMCDPにとって多大の負担であるから行訴法25条の執行停止の要件を満たす。
仮にこのとおりの方向で本案が進んだ場合、主文の一部取消しという論理的可能性もあるが、主文がそのように狭く解されることを前提として命令是認、という論理的可能性もある。
公取委の命令の執行停止に関する先例等
単独行為で、名宛人が当然のように行ってきたビジネス行為である場合には、執行停止が認められる可能性があると指摘されてきたが、本件はどうか。
本人同意があると判断されるのなら、執行停止は難しいのではないか。
本件の東京地裁決定へのコメント
上記のように、次のいずれも、本案の論点につながっている。
本人同意 → 仮にあるなら独禁法上の正当化理由なしの方向か
主文の解釈等 → 一部取消しまたは狭い解釈を前提とした命令是認の方向か
他の議論はあり得る。
本案の裁判体は、変化したはずである。
以下は、上記の「要約」に関する若干の詳論。
一般指定14項
14 自己又は自己が株主若しくは役員である会社と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について、契約の成立の阻止、契約の不履行の誘引その他いかなる方法をもつてするかを問わず、その取引を不当に妨害すること。
合わせ技一本的な種々混在事例
いずれにしても、行為による排除効果は、存在する可能性が高い
以下では、正当化理由に重点を置く。
正当化理由……「個情法遵守」で正当化されるか
もし、遵守のため、MCDPの行為が、本当に必要なら、排除効果があるとしても、独禁法上、正当化される。
「MCDPの行為」
= 「MCDP→建設業者→競争者」の受け渡しを、しない/させない、という行為
遵守のため本当に必要かが、問題。
排除措置命令書が個情法に言及した部分
https://gyazo.com/ce1986a19d707298ebc64934d808e237
個人情報保護法の構造(本件関係+α)
https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057
「個人情報」(2条1項)
「本人」(2条4項)
「個人情報データベース等」(16条1項)
「個人データ」(16条3項)
個人データを他人に渡すことに関する規制(27条)
「第三者」への「提供」に該当するなら、
あらかじめの本人同意を得ることが必要(27条1項)
次の場合には、他人は「第三者」に該当しない(27条5項)
例
委託(27条5項1号)
共同利用(27条5項3号)
次の場合には、「提供」に該当しない(法解釈であろう)
例
クラウド例外(個情委Q&A 7-53)
違法・不当な行為を誘発・助長する個人情報利用の禁止(19条)
排除措置命令書における、共同利用(27条5項3号)への言及について
MCDPと建設業者の間について、共同利用であるとしている。
疑問・指摘(白石による疑問・指摘)
関係当事者が「共同利用」と言っているからといって、個情法の共同利用に該当する(本人同意が不要となる)とは限らない。
あくまで、法的判断権者(独禁法事件での公取委・裁判所を含む)が判断することである。
なお、
MCDPが根拠としていると考えられる契約書の文言は、東京地裁決定書4頁。
個情法界隈では、Tポイント事件(CCC事件)などを経て、「共同利用」については具体的基準等を深めない雰囲気がある模様。
例えば、伊藤雅浩=倉﨑伸一朗=世古修平編著『分野別・争点別 ITビジネス判例・事例ガイド』352〜353頁(世古修平執筆)の指摘
仮に、個情法の共同利用に該当し、かつ、「MCDP→建設業者→競争者」が共同利用の目的外利用に該当するとしても、27条5項3号の例外から27条1項の原則に戻るだけであるから、個人データを適法に渡す方法は他にもある。
例えば、本人同意を得ればよい(27条1項)。
この点は、排除措置命令書も言及。
一般論としては、他の例外を模索できる可能性も残る。
委託
クラウド例外
白石による疑問・指摘の結論 仮に、以下で見ていくように本件独禁法事件は本人同意で解決できるのであるならば、少なくとも結果論としては、排除措置命令書における共同利用への言及は本件独禁法事件では不要な余事記載である。この余事記載があるために、独禁法事件に無関係の種々の議論が誘発されている。
現に、東京地裁決定は、MCDPと建設業者の間の契約書の紹介を除き、共同利用には言及していない。
本人同意は容易に取得できるか?
東京地裁決定
決定を検討する前に再び確認
公取委の事件解決イメージは、「作業員→建設業者→MCDP」と受け渡された個人データを、「MCDP→建設業者→競争者」と受け渡すことである。
言葉の整理
作業員 = 個情法上の「本人」
建設業者 = 本件独禁法事件でいう「ユーザー」
東京地裁決定の理由付け
「MCDP→建設業者」について、既に本人同意がある(決定書13頁)
→ MCDPが自ら個情法27条1項に違反することはない。
「建設業者→競争者」について、既に本人同意がある(決定書15頁)
→ MCDPが、建設業者による個情法27条1項違反を助長・誘発する行為を行ったとして、個情法19条に違反することはない。
したがって、行政事件訴訟法25条の「重大な損害」などの要件を満たさない(決定書15頁)。
東京地裁決定の上記理由付けに対するコメント
東京地裁決定は、行政事件訴訟法25条について判断しているが、
この考え方は、本案で、MCDPの独禁法上の正当化理由を否定する理由付けともなり得る。
なお、東京地裁決定後の、本案における裁判体の変動
笹本裁判官と伊藤裁判官が民事8部を離れている。
柴田裁判官は、民事8部において、笹本裁判官の後任的な職務。
「令和7年4月1日現在」(東京地裁決定の直後の4月1日)
https://gyazo.com/67095bef203c4a96dea2d50d85b01f3b
行政事件訴訟法25条
https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000139
(執行停止)
第二十五条 処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2 処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。
3〜8 (略)
https://gyazo.com/1c3471d977ca3397a149cedf52417cd6
一部執行停止となった部分について
問題となった排除措置命令主文第1項は、次のとおり。
https://gyazo.com/a11b8bc86e1cdbf6ff5ea1cbd039efff
東京地裁決定の主文
「相手方」=公取委
「ユーザー」=建設業者
https://gyazo.com/16ed1123a30605f9857a2734f9949ade
東京地裁決定が一部執行停止とした理由(論理構造)
他のユーザーBによって変更された部分を、MCDPが、ユーザーAが登録した状態に復元し、ユーザーAに渡すのは、公取委の「行政目的に照らして意味が乏し」く、また、MCDPに「多大の負担」。(決定書11〜12頁)
主文第1項の「ユーザー自らが登録した当該作業員情報」を、他のユーザーBによって変更された作業員情報についてはそのまま渡せばよい、というようには、読むことはできない。(決定書8〜11頁)
公取委(「相手方」)は、「ユーザー自らが登録した当該作業員情報」とは、「ユーザー自らが登録した項目に係る作業員情報」であるから、他のユーザーBによって変更された作業員情報についてはそのままMCDPがユーザーAに渡すことを命じているのである旨を主張しているが、これは、MCDPに裁判所で争われて「後付けで付加したもの」(決定書10頁)。
他のユーザーBが変更したものは含まないとしか「読みようがなく」(決定書8頁)、公取委の主文解釈は「明確にその文理に反し、無理があるというほかない。」(決定書9頁)。
したがって、行政事件訴訟法25条の「重大な損害」などの要件を満たす(決定書12頁)。
公取委の命令の執行停止に関する先例等
平成25年改正(審判制度廃止)前は、保証金を支払えばほぼ常に執行停止がされる「執行免除」制度があり、争いとならなかった。
平成25年改正(審判制度廃止)後は、行政事件訴訟法25条による執行停止しかないこととなったが、
却下されるのが通常
しかし、カルテル事件が多い
カルテル事件でなく、名宛人が当然のビジネス行為として許されると考えている行為の取りやめを排除措置命令で求めている事例で名宛人が命令の取消しを請求しているのであれば、執行停止はあり得るのではないか、という見通しもあり得る。
本件の東京地裁決定へのコメント
一部執行停止部分は、「主文の解釈」により主文を狭めており、実質的には、本案事件において当該部分について「一部取消しまたは変更」をする議論に近い。
決定書そのものは行政事件訴訟法25条のために論じているが、これは、独禁法の違反要件または命令要件の問題として再構成し得る。
それ以外の部分(執行停止を否定する部分)は、実質的には、本案事件において独禁法上の正当化理由の主張を否定する議論に近い。
本人同意は既にあるという認定 → 正当化理由が成立しない。
もちろん、
本人同意は既にあるという判断に対する反論はあり得る。
他にも、正当化理由の主張はあり得る。
本案における裁判体の変動(既出)