理系のための法学入門(2025年度)試験問題・解答例・メモ
講義「理系のための法学入門」(2025年度)の期末試験の問題と解答例・メモを公開します。
セメスター中に提出する自由度の高い課題が40点、この試験が60点、という配点です。
試験時間は60分です。
教室で講義を聴講したことを前提とした出題です。
試験場には、紙媒体の資料を持ち込み可としています。
更に、下記の随所に書いたように、特定の資料が役立つことを事前予告しています。
解答例は、あくまで例です。
解答例は、解説目的を兼ねています。そのため、学生が書くべき答案として期待するものよりも長めとなります。学生の答案は、これより簡易な書き方でも、ポイントを押さえていれば、許容されます。
解答用紙は、A4縦置きです。「○〜○行程度」という場合の行は、A4の短辺をイメージしてください。「程度」と書いてあるように、厳密なものではありません。
第1問(要配慮個人情報)
https://gyazo.com/0b7116dc47e42af8cc4c96e53b34668a
解答例
誤り。法令の条文で「Aその他B」という場合には「A and B」という意味である。個情法2条3項にいう「政令」は上記のBの中に含まれるから、Aに相当するものは政令には列挙されない。
メモ
条文における「その他/その他の」について授業で複数回にわたって説明し、個情法2条3項についてもその観点から複数回にわたって図示しながら説明したことを前提とした出題です。
「その他」と書いてあるから並列(A and B)である、という旨を答案で明確に述べる必要があります。「その他の」であれば異なる読み方になるからです。
第2問(個情法27条)
https://gyazo.com/07509916782542118f73ec5f7312a6d7
解答例
個情法27条は、個人情報取扱事業者が個人データを他人に渡す場合について規定している。「第三者」に「提供」するときには、あらかじめの本人同意を得ることが必要である(1項)。委託や共同利用のときには、「第三者」に渡すものではないとされ、あらかじめの本人同意は必要ない(5項)。いわゆるクラウド例外は、「提供」に該当しないと解釈され、あらかじめの本人同意は必要ないとされる(個情委Q&A)。
メモ
授業で説明し、個情法27条を含む個情法の構造図を描いて、当該構造図を試験場に持ち込むとよいと事前予告したことを前提とした出題です。
『分野別・争点別 ITビジネス判例・事例ガイド』の「3 ネットサービス」を授業で読み解きながら得た理解を構造図にしたものです。
個情法27条のうち、授業で取り上げた範囲だけでよい、と問題文に明記しています。
横書きの答案であるために「第3者」とした解答が、一定割合で見受けられました。「第三者」は、熟語であり、「3」という数とのつながりが薄く、「4」や「5」に変えて意味を持ち得る言葉ではありません。したがって、横書きでも、漢数字を使って「第三者」とするのが標準的です。「第3者」と書くのは、やめたほうがよいと考えます。減点はしていません。
第3問(データ消失防止義務)
https://gyazo.com/91d5efcd5f2214c15d1fd51f05d0449f
解答例
裁判所は、この事件における原告と被告の関係や、原告が自らデータを記録・保存できたことなどを指摘して、そのような事案においてはデータの消失防止義務はないとしている。特定の事案を前提として裁判所が述べたことを、そのような留保抜きで一般化すべきではない。
メモ
『分野別・争点別 ITビジネス判例・事例ガイド』を教科書とし、この事例を取り上げて解説したことを前提とした出題です。同書を試験場に持ち込むとよいと事前予告したことを前提とした出題です。
よくできていました。答えが、同書386頁にも書かれています。
第4問(研究発表スライド)
https://gyazo.com/964c36c202d23874b704d7cc8fcb8b59
解答例
(a)では、著作権法35条に基づき、大学において授業を受ける者が、授業の過程において必要な限度で著作権者の利益を不当に害することなく貼り付けるのであると説明する。(b)では、著作権法32条に基づき、公正な慣行に合致する方法で、研究の目的上正当な範囲内で引用するのであると説明する。
メモ
授業で説明し、構造図を描いて、当該構造図を試験場に持ち込むとよいと事前予告したことを前提とした出題です。
著作権法38条(1項)に言及する解答が、若干数、ありました。授業では触れていませんので、試験中に条文を見て気付いたのかもしれません。38条1項が掲げる「上演」「演奏」「上映」「口述」は、いずれも、著作権法2条1項16号〜18号で定義された用語であり、研究発表スライドとは関係が薄いように思われますが、可能性がなくはないと思われますので、一定の評価はしました。
「35条」「32条」のように、「○○条」と書くと、文章に具体性・信頼性が増します。
第5問(著作権法21条)
https://gyazo.com/ecd0a5946bc09f981738f738a924bb67
解答例
著作権法28条によって原作者は著作権法21条の複製権を持つが、同条の複製権は、自分が必ず複製できるという権利ではなく、他人による複製を禁止できるという権利であるにすぎないと考えられている。翻訳者も複製権を持つから、原作者は翻訳者から許諾を得る必要がある。
メモ
授業でこの点を説明したことを前提とした出題です。
次の2点が必要(法学入門としては、前者を指摘できることが重要)
21条は、その文面どおりの意味ではない。
原作者と翻訳者のそれぞれの複製権(複製禁止権)が併存しているので、原作者は、翻訳者から許諾を得る必要がある。
第6問(一般通常人の常識)
https://gyazo.com/08d7f46d96d4e1420308c774273e3a49
解答例
景品表示法の不当表示規制は、一般消費者がどのように受け止めるかを基準とするが、裁判所は、原告を選ぶことができないので、被告の表示に対する独自の感覚によって誤認したとする原告の主張を退けることができるよう、「一般通常人の認識を基準として」という基準を置く傾向があると推測される。
メモ
『分野別・争点別 ITビジネス判例・事例ガイド』を教科書とし、この事例を取り上げて解説し、同書を試験場に持ち込むとよいと事前予告したことを前提とした出題です。
上記の解答例は授業中に提示した一つの推測ですので(控えめな言い方)、
上記と同様のことを述べていれば、かなり漠然とした答案でも広く受け入れることとしました。
一定程度の説得力がある他の推測があれば広く受け入れることとしました。(そのような答案は、見当たりませんでした。)