令和6年度相談事例1〔家電メーカー販売価格指示〕
#令和6年度相談事例
(令和6年度相談事例では、この事例のみ、構成を崩して解説している。)
「単なる取次ぎ」の論法を使って取引相手方に対する価格制限が独禁法に違反しないこととした一例ではあるが、これまでの同様の事例とは一線を画しているように見える。
これまでの状況
「単なる取次ぎ」の論法は、流通取引慣行ガイドラインに平成3年の策定時から存在する考え方である。
現在のガイドラインの2類型(①・②)は、平成3年策定時の2類型(①・②)と同文である。
平成3年策定時には、現在のガイドラインのような「具体例」はない。
①は「委託販売」、②は「頭越し直接交渉」、である。
①は、次のようになっている。
委託販売の場合であって、受託者は、受託商品の保管、代金回収等についての善良な管理者としての注意義務の範囲を超えて商品が滅失・毀損した場合や商品が売れ残った場合の危険負担を負うことはないなど、当該取引が委託者の危険負担と計算において行われている場合
最近の相談事例として、
次のものがあり、
平成28年度相談事例1〔家電メーカー販売価格指示〕
令和元年度相談事例5〔家電メーカー販売価格指示〕
いずれも、
小売業者の要望により委託販売ではないとしながら、①と同様の論法を示して、
「リスク」に言及し、
「リスク等」を行為者が追うことに言及して、
独禁法違反ではないとしていた。
本件の特徴
本件は、
費用も行為者が負担することを強調し、
「本件覚書の内容を実施するに当たり生じる在庫保管費用や輸送費用等対象家電製品の一般消費者への販売に至るまでに生じる費用」も行為者が負担(考え方欄では4頁エ)
独禁法上問題となるものではないとする結論部分において、行為者が「リスクと費用を自ら負担」と述べている。
流通取引慣行ガイドラインは、「危険負担と計算」としていた。これを、上記平成28年度事例や令和元年度事例は「リスク等」と丸めて具体的基準では「リスク」のみに触れていたが、本件では、ガイドラインの「危険負担と計算」に相当する「リスクと費用」を掲げ、現に、「費用」を行為者が負担することを強調した上で、独禁法上の問題がないとしている。
コメント
平成28年度事例や令和元年度事例などの関係で、実際にその種の取組が大きく報道されるなどして、同様の試みが相当に広がっているとも言われる。
今回の相談事例は、
公取委が問題ありとした事例を掲げるということは避けているが、
「費用」について十全の対応をした例を挙げて、これまでは公取委自身があまり言及していなかった「費用」の要素を強調している。
増加した相談に対し、注意を喚起するもの、とも言えるが、
小売業者も何らかのマージンを得る以上は何らかのリスクと費用を負担すべきであるという考え方は成り立ち得るところであり、今回の事例のような費用を行為者が負担しなければ決して独禁法上許容されないのかというと、定かではない。