エコリカ対キヤノン
令和6年9月12日 大阪高判
大阪高判令和6年9月12日・令和5年(ネ)第1531号〔エコリカ対キヤノン〕
LEX/DB、D1-Law、などにある。
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事案の概要
第2 事案の概要
1 本件は、被控訴人が販売するインクジェットプリンター用の純正品インクカートリッジに関し、使用済みの純正品を回収してインクを充填し、インク残量データを初期化するなどして再使用した再生品インクカートリッジを製造して「エコリカ」ブランドとして販売していた控訴人が、被控訴人に対し、①被控訴人が平成29年9月以降現在まで販売している型番BCI-380及びBCI-381シリーズのインクカートリッジ(以下、併せて「本件純正品」という。)において、ICチップに記録されるインク残量データを初期化することができない仕様とするなどしたことが、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)19条により禁止される、同法2条9項6号所定の「不公正な取引方法」として昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号(一般指定)が規定する「抱き合わせ販売等」(一般指定10項)又は「競争者に対する取引妨害」(一般指定14項)に当たり、被控訴人がこのような不公正な取引を行った結果、控訴人は、本件純正品の再生品インクカートリッジ(ただし、ICチップを取り替えないまま商品化されるもの。以下「本件再生品」という。)を販売できなかったなどと主張して、独占禁止法24条に基づき、本件純正品につきインク残量データを初期化して再使用することができない電子デバイス等を用いないことを求める(以下、上記の請求を「本件差止請求」という。)とともに、②このような不公正な取引は不法行為を構成するとし、この行為がなければ控訴人は本件再生品を平成31年4月以降販売できていたはずであり、控訴人が本件再生品1個当たり得ていたはずの利益50円に売上見込個数を乗じると少なくとも3000万円の損害が生じていると主張して、民法709条に基づき、損害の一部である3000万円及びこれに対する不法行為の後の日である本件訴え提起の日(令和2年10月27日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前の民法)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審が控訴人の請求をいずれも棄却したので、これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。
独立系のもの
「本件再生品」
「本件改良品」
「インクエンドサイン等の機能」を持つ
「互換品」
他者排除型抱き合わせの違反要件
行為要件
「購入させ」
弊害要件(公正競争阻害性=「不当に」)
排除効果(市場閉鎖効果)がある
正当化理由がない
1審判決のポイント
「購入させ」
キヤノンの行為でエコリカの商品から失われたのは、需要者が必要としていない要素のみ PDF37-43
排除効果(市場閉鎖効果)
「購入させ」と重なる判示 PDF43
正当化理由
(閲覧制限部分を含むPDF43-44 は、正当化理由を窺わせる)
2審判決
「購入させ」を否定したが、理由付けが異なる(14〜18頁)
「被控訴人製インクジェットプリンターを買った者の多く(約84%)」にとっては、本件行為による影響はない(14頁)
「再生品インクカートリッジを購入してきた者(1割程度の者)」については、インクエンドサイン等の機能がなくとも「特段問題なく受容する者も一定数存在すると考えられる」が、「インクエンドサイン等の機能がない本件再生品の購入を避ける者も少なからず出てくるものと考えられる」(14〜15頁)
そうすると、本件再生品がインクエンドサイン等の機能を有しないことは、印刷に必要なインクを供給するというインクカートリッジの本質的な機能そのものには大きな影響を与えないとしても、再生品インクカートリッジを購入しようとする者にとって、その購入するか否かの意思決定を左右する重要な利便性に関わる問題であると認められる。(16頁)
したがって、被控訴人が本件純正品にインク残量データを管理する方法として初期化不能電子デバイスを使用したことにより、仮に被控訴人以外の者がインクエンドサイン等の機能を有しないインクカートリッジしか製造販売することができなくなるとすれば、本件プリンターの購入者で、少なくとも従前インクエンドサイン等の機能を有する再生品インクカートリッジを購入してきた者のうちの相応の割合の者は本件純正品の購入を余儀なくされる(併せて、従前本件純正品を購入してきた者にとっては商品選択の機会を奪われる。)といわざるを得ない。(16〜17頁)
しかし、互換品は可能。エコリカも、令和4年3月、互換品(「本件改良品」)の販売を開始。
「不当性」(=公正競争阻害性)も否定(18〜19頁)
(3) 不当性について
また、不当性の有無という観点からみても、次のとおり、不当性があるということはできない。
すなわち、インクカートリッジにおける本質的な機能は印刷に必要なインクを供給することにあって、インクエンドサイン等は、インクカートリッジにおける本質的な機能ではなく、印刷を円滑に行うための付随的機能の一つであるから、あえて価格が安いことを主要な理由に本件再生品を選択する者もあり得るし、インクエンドサイン等の有用性を重視するとしても、本件改良品を購入することもできれば、前記1(6)のとおり、被控訴人以外のメーカーからインクエンドサイン等の機能を有する互換インクカートリッジを購入することもできることを考慮すると、被控訴人において、本件純正品のICチップに記録されるインク残量データを初期化することができない仕様とするなどしたことが、自由な競争を減殺したりその基盤が保持されなくしたとまでいうのも困難である。
さらに、被控訴人が本件純正品を開発するに当たり、初期化不能電子デバイスを採用し、その結果、再使用においてインクエンドサインが表示されず、インクエンドストップもしない設計としたことについては、前記1(3)ウのとおり、被控訴人は日本国外において印刷枚数を基準とする定額課金サービスを実施しているところ、【黒塗り】を防止する効用もあったと考えられ(弁論の全趣旨)、他方、被控訴人において、控訴人によるICチップの取替えを是認しており(被控訴人原審答弁書)、競合品発売を積極的に妨害するものであったということもできない。
このような事情に照らすと、不当性があったと認めることもできない。
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「インクカートリッジにおける本質的な機能」を強調。
しかし、それを絶対的な理由とはせず、他の理由を添えている。
本件改良品や互換品を購入できる
印刷枚数を基準とする定額課金サービスを実施するにあたっての悪用行為であると思われる「【黒塗り】」の防止の効用
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令和5年6月2日 大阪地判
大阪地判令和5年6月2日・令和2年(ワ)第10073号〔エコリカ対キヤノン〕
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作為命令可能 PDF32-33
一定の取引分野の画定の必要性は、
文理上は否定したが PDF34-35
自由競争減殺・自由競争基盤侵害について結局は肯定 PDF35-36
他の商品 PDF36-37
購入させ
事後も含む PDF37(ブラザーと同旨)
失われたのは需要者が必要としていない要素のみなので否定 PDF37-43
不当性(一般指定10項)
購入させと同じ理由で
不正手段(競争手段の不公正さ)を否定 PDF43
反競争性(自由競争減殺)を否定 PDF43(「能率競争」と言っているが自由競争減殺の文脈)
(閲覧制限部分を含むPDF43-44 は、正当化理由を窺わせる)
一般指定14項
一般指定10項と同じ理由で、
妨害にあたらない PDF44-45
不当性もない PDF45
エコリカのリリース
判決の内容から抜粋しますと
A)インクカートリッジにおける本質的な機能は印刷に必要なインクを供給することにあって、インクエンドサイン等(インク残量表示機能、インクエンドストップ機能等を総称する趣旨と考えられる)は、インクカートリッジの本質的な機能ではなく、印刷を円滑に行う為の付随機能の1つである。
B)(リサイクルインクは)価格が安いことが評価されて選択され、家庭での利用が多い
C)インクエンドのサイン等の機能の有無をリサイクルインクの選択の条件とすることは少ないと考えられる
D)そのため、インクエンドサイン等の機能が利用できない設計を採用することが競争手段として直ちに不公正であるというのは困難である
と結んでいます。
日経
谷村裁判長は、インク残量が表示されなくてもカートリッジの本質的な機能に大きな影響を与える問題ではないとの見方を示し、消費者が「純正品の購入を余儀なくされているわけではない」と指摘。独禁法が禁じる「抱き合わせ販売」には該当しないと判断した。
またICチップの仕様変更が「競争者に対する取引妨害」にあたるということもできないとして、エコリカ側の請求を退けた。
令和2年10月27日 大阪地裁に訴訟提起
エコリカのリリース