ロールズの無知のヴェールと格差是正原理
ロールズは、全ての人々が人間らしく生きていくための社会の原理を考えた
前提として次のことを置いている
この世にある人間の必要とする資源は有限である
人は何をもって善い生き方とするか、何を人生の目的とするかについて、極めて多様な考えを抱いている
人々は「無知のヴェール」に覆われた状態では、誰もが最も恵まれない立場に置かれる可能性を想定し、それをできる限り良いものになるような社会の原理を選択すると考える
ロールズは、あるべき社会の原理を見出だすための思考実験として、人々が、自分の社会的地位、天賦の資質、人生についてどんな目標を持っているのかが分かっていないという状況(「無知のヴェール」)を仮定
人は、自分に関する情報を知っていれば、自分に有利になるように社会の原理を選択してしまうが、これでは、公正な原理を見出せない
そこで、誰も自分に関する情報がわからないとの仮定を置いて社会の原理を選択するという状況を考える
そしてその場合には、人々は、「誰もが社会の最も恵まれない立場に置かれる可能性を想定し、それをできる限り良いものにする」 ような社会の原理を選択するはずであるとした
ロールズが、人々に選択されると考えた原理とは
具体的には、「無知のヴェール」に覆われた人々は次のような原理にコミットするとされる
1. すべての人に基本的な自由と権利が、平等に分配されること(平等な基本的諸自由の保障)
2. 職務と地位に関するアクセスがすべての人に公平に開かれていること(公正な機会の均等の保障)
3. 所得や富の「格差」の存在は、社会の最も恵まれない人の状況の改善に最大限資するものであること(格差是正原理)
格差是正原理は、一定の格差の存在を容認しつつも、格差の存在が最も恵まれない人の状況の改善に最大限資する場合にだけ正当化されるとする 「格差是正原理」 の意図するものは、所得や富の一定の格差を容認した方が、完全な平等を要求するよりも生産性の向上や雇用の確保をもたらし、恵まれない人々の所得や富はむしろ向上する、というもの
仮に、所得や富について完全な平等を要求すると、より多くの所得を求めようとするインセンティブが損なわれ、経済活動が停滞する蓋然性が高い
仕事の内容によりリスクが異なっているのに報酬が全て同じでは、適切な社会分業もできない
そこで、ロールズは、一定の所得や富の格差を容認するが、その格差の存在は、あくまで、それが 「社会の最も恵まれない人の状況の改善に最大限資する場合」 にだけ正当化されるとする
ロールズは、格差の少ない社会こそが 「自由で平等とみなされる市民の間で社会的協働を行う公正なシステム」 であると考えた
ロールズは、個人が自分の選択した人生を自由に生きるという幸福追求を重視したが、全ての個人がそうするためには、基本的な自由や権利の平等な保障だけではなく、所得や富の公平な分配を要求すべきであるということも重視
格差の存在を認めつつも、社会の中で恵まれた状況にある人々の利益の増加は、恵まれない状況にある人々の犠牲の下に得られるものであってはならず、格差の少ない社会こそが、「自由で平等とみなされる市民の間で社会的協働を行う公正なシステム」であるとする
参考文献