ロウ対ウェイド裁判
人工妊娠中絶に関するアメリカにおける裁判 (訴訟)
1973 年にアメリカ連邦最高裁判所がロー判決を下したことにより、中絶は初めて連邦レベルで合法とされた
中絶の増加をもたらした
中絶の是非はアメリカの世論を二分する問題となった
2022 年、「ドブス対ジャクソン女性健康機構」 訴訟により、この判決は覆された
訴訟の内容
1970 年 3 月に訴訟が提起された
原告はジェーン・ロー (Jane Roe)、相手はテキサス州ダラス郡の地方検事であるヘンリー・ウェイド (Henry Wade)
中絶を禁じるテキサス州法が、合衆国憲法が保障するプライバシーの権利を侵害しているとして、同州法が違憲であると宣言する判決を裁判所が下し、同州法の執行を停止することを求めたもの
同年 6 月 17 日にテキサス州北部地区連邦地方裁判所はテキサス州法が違憲であると宣言する判決を下した
女性が子供を産むかどうかを選択する権利は合衆国憲法修正第 9 条が保障する基本的権利と認められている
テキサス州法はこの権利を侵害している
テキサス州が中絶を禁じる場合、州は原告の権利を上回る、「やむにやまれぬ利益」 の存在を証明せねばならないにもかかわらず、州法の規定は広範で曖昧であることから、合衆国憲法修正第 14 条が定めるデュー・プロセスに違反しているとした
一方で、テキサス州法の執行の停止については原告の請求を棄却
原告と被告はともに連邦最高裁判所に上訴し、判決は 1973 年 1 月 22 日に下され、連邦最高裁判所は 7 対 2 の大差でテキサス州法が違憲であることを認めた
判決の概要
ハリー・ブラックマン (Harry Blackmun) 判事による法廷意見の要旨
1. 中絶の起源
大半の州において刑事責任を問う中絶法は比較的最近作られたものであること
古代ギリシャやローマ時代においては中絶がためらいなく行われていたこと
コモン・ローにおいて、胎動の有無にかかわらず胎児の中絶は犯罪行為として確立されてはいなかったとする見解がある
といったことなどを指摘
2. 合衆国憲法とプライバシーの権利
合衆国憲法はプライバシーの権利について明示的に言及していないものの、個人のプライバシーの権利が合衆国憲法に存在することは連邦最高裁判所の判例において認められてきた
プライバシーの権利は妊娠を終わらせるかどうかについての女性の決定権を包含する
他方、プライバシーの権利は絶対的なものではなく、若干の制約を受けることがある
妊娠中のある時点において、健康を保護し、医療水準を維持し、胎児の潜在的な生命を保護するための州の利益が優勢となる
その上で、一定の基本的権利を制限する州の規制は、やむにやまれぬ州の利益によってのみ正当化される
3. 中絶が認められる妊娠期間
母親の健康に対する州の重要かつ正当な利益に関しては、州の 「やむにやまれぬ」 時点は第 1 三半期の終了時であるとした
その段階においては、医師は妊婦と相談の上、州の規制なく自己の医学的判断において中絶を決定し実施し得る
第 1 三半期の終了後は、州は、母体の健康の保持と保護に合理的に関係する限りにおいて、中絶手術を規制することができる
潜在的生命に関する州の重要かつ正当な利益に関しては、州の 「やむにやまれぬ」 時点は母体外生存可能性時であるとした
それ以降の段階においては、州は、生存可能期間後の胎児の生命を保護するに当たり、中絶が母体の生命又は健康の保持のために必要である場合を除き、中絶を禁止することも許される
4. 結論
以上を踏まえ、法廷意見は、テキサス州法が妊娠初期(第 1 三半期)に実施される中絶とより後期に実施される中絶を区別せず、合法な中絶を制限し、中絶の目的を母親の生命を救うという唯一の理由に限定していることから、違憲であると結論付けた
参考文献
アメリカにおける人工妊娠中絶の現状 ―覆された「ロー対ウェイド」判決―