「焼肉酒家えびす」集団食中毒事件
小西さんは11年4月23日、17歳になった長女の誕生日を祝うため、家族5人で砺波店を訪れ、全員がユッケを食べた。妻と義母が同5月4、5日にそれぞれ食中毒で亡くなり、子供2人も重症となった。 次男の大貴君(当時14歳)を亡くした富山県小矢部市の久保秀智さん(58)は「10年たっても20年たっても同じ。何も変わってない」と苦しい胸の内を明かした。
11年4月22日、大貴君の1日遅れの誕生日祝いに砺波店を訪れた。ユッケを食べた大貴君は溶血性尿毒症症候群(HUS)を発症し、闘病の末、同10月に亡くなった。
厚生労働省の報告
患者数181名、内5名が死亡
死者は5~9歳が2人、10~14歳が1人、40~49歳で1人、70歳~で1人
症状
喫食状況
焼肉系列店は、客が自ら肉を焼いて食べる形態で、焼肉カルビの他、焼レバー、キムチ、冷麺などを提供していた。喫食状況の統計学的検索では、患者の約 96%がユッケを喫食しており、オッズ比がユッケで最も高かった(砺波店 12.89(95%信頼区間5.57-30.29)、高岡駅南店 12.88(95%信頼区間 4.43-37.41、富山山室店 26.03(95%信頼区間 580.8-4.3)(参考:表1~3)。また、砺波店では、焼レバーのオッズ比も高かった(オッズ比 2.61、95%信頼区間 1.43-4.75)。
事件発生の要因
大腸菌 O111 を検出した未開封のユッケ用肉は 4 月 13 日に食肉卸売業者で加工された肉で、患者の発生は 4 月 16 日から 4 月 27 日に焼肉系列店を利用した者であることから、ある特定の原料肉が EHECO111 などに汚染され、その原料肉が納品された店舗で食中毒が発生したと推測される。砺波店では、他の店舗と異なり、ユッケ用肉の下処理工程において、複数の原料肉のものが混ぜ合わされており、このことにより、特定の原料肉の汚染が客に提供される全てのユッケに広がったと考えられ、他の店舗より患者数を増加させた要因と推定された。 ユッケ用肉は約 500g単位で包装されており、生食用の表示はなかったものの焼肉系列店本部では、食肉卸売業者で衛生的に処理されたものが納入されているものと判断し、原料肉の自主検査は一度も実施していなかった。また店舗に残されていたユッケ用肉の中には、厚さ 1cm程度の薄い肉がロール状に巻かれて包装されていたものがあり、横浜市内の店舗に残されていた大腸菌 O111 を検出した肉もロール状に巻かれた肉であった。生食用食肉の衛生基準に基づいたトリミング等の処理は、ユッケ用肉を加工した食肉卸売業者においても、焼肉系列店においても実施されず、汚染経路は不明であるが、ユッケ用肉に付着した細菌は取り除かれることなく客に提供されていたと考えられた。また、ユッケ用肉に使用された枝肉やパーツ肉を出荷したと畜場では、生食用食肉の出荷実績がなかったことなど、食肉を取扱う各段階においてその安全が確保されず、ユッケの提供が安易に行われていたことが、事件発生の大きな要因であったと考えられた。