新型コロナの下の教学IR関連指標
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新型コロナウイルスによる感染症の世界的な流行は、授業のほとんどをオンライン化した。日本でも97%の大学が授業をオンライン化しているという報告があり(参考文献1)、在学生の多くはZoomなどのウェブ会議システムを用いて在宅学習を続けている。つまり、通学制大学に在籍する学生の学びは一変している。 しかし、本稿を執筆している2020年8月中旬時点で、オンライン学修の成果をどのように測定し、改善すべきかに関する報告はほとんどなく、報告されていたとしても、多くがオンライン授業のノウハウ共有や、学生に対するノートパソコン、Wi-Fiルータの貸与割合など環境の整備にとどまっている。急激な感染拡大にともなって緊急避難的に授業をオンライン化したという事情を勘案すると、とにかくオンライン授業をスムーズに実施すると同時に、学生を経済的に支援することが大学にとっての最優先事項であり、とてもその評価・改善まで手が回っていないという状況はやむを得ないと考えられる。一方で、後期(秋学期・第三期)以降も全面的な通学再開が望めない状況では、オンライン授業を前提とした本格的なPDCAサイクルを考える必要がある。そこで本コラムでは、対面授業が当然であった時期の評価指標と対比する形で、何をどのように評価すべきかを考えていきたい。 まず、対面授業を前提としている指標のほとんどは、オンライン授業でも引き続き用いられるべきである。具体的に、本協会の前身である関東地区IR研究会メンバーが執筆した『大学IRスタンダード指標集』(参考文献2)に掲載されている教学関係の指標37個を見直すと、学生がキャンパスに来なければ意味をなさないものは、多く見積もっても6個である(表1)。むしろ、他の指標はオンライン授業であるがゆえに収集できるデータが増えるため、より精緻に検証できたり、学生の実態把握の観点から検討する重要性が増したりすることがわかる。 表1 大学IRスタンダード指標集の指標再検討
https://gyazo.com/4918c6a01f986fd28f72bebf21bbe002
(※)〇:そのまま使用、△:部分的に修正して使用、×:オンライン授業では不使用
また、上記のような指標では不十分であるケースや、従来想定されていなかったため新たに検証すべき内容を含むものとして、以下のような指標案を提案したい。
■ 個別学習活動に関する指標群
例)ライブ授業出席率、オンデマンド教材アクセス率(学習率)、アクセス時間帯(テスト受験時間等も含む)等:LMS(Learning Management System)やライブ授業配信システム(Zoomなど)に記録されるアクセスログや操作ログによって、これまでより詳しく学生の学びの状況がわかるため、新たに設定できる指標である。 ■ オンラインのグループ学習活性度
例)オンラインでの発言数、類型化された発言内容の分布等:グループ学習の録画・録音や、グループ学習のチャットやオンライン情報共有システムの記録などを分析することによって指標化できる。
これらの指標は、各授業(ミクロレベル)、学部・研究科単位(ミドル・メソレベル)、大学全体(マクロレベル)など、いくつかの規模・粒度で設定できるはずである。いずれにしても、教学IR担当部署が新しい学びの状況に即した指標をステークホルダーに提案していくことは、授業改善の道しるべを模索している組織にとっても、学びの改善方向を自覚していない学生にとっても有益であろう。 参考文献
(2)関東地区IR研究会(監修)松田 岳士, 森 雅生, 相生 芳晴, 姉川 恭子 (編著)(2017)大学IRスタンダード指標集 ―教育質保証から財務まで―、玉川大学出版部 ※当コラムの文責及び著作権は、すべて投稿者に帰属します。