IRでなにを考えるのか、それが問題だ(第1回)
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To be, or not to be, that is the question.
By William Shakespeare (from Hamlet)
みなさんはじめまして。神戸常盤大学の高松邦彦と申します。よろしくお願いします。本シリーズは、ある日突然、まったくIRと関係のない職員や教員が、IR部門に配置されたときに、なにをすればよいのかについて考えていくシリーズです。第1回の今回は、私が所属する神戸常盤大学では、IR部門が2種類(職員だけの部門と、教員と職員から構成される部門)があること、そしてその理由についてお話ししようと思います。 Institutional Research (IR)には、大きく分けて2つの側面があります。一つは、大学経営のためのIRと、もう一つは学生に関するEnrollment Management Institutional Research (EMIR)です。その他、研究IRと呼ばれるものもありますが、これは大学経営などにも含まれるため、今回は、大学経営IRに入れておきます。 中央教育審議会により、2008年の「学士課程教育の構築に向けて」答申[1]で初めてIRの重要性が説かれました。また、2018年の「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」答申[2]や2020年の「教学マネジメント」指針[3]においても、繰り返し大学におけるIRの必要性が求められてきました。 実際、2008年の答申から10年以上経過した現時点(2020)では、多くの大学にIR部門が設置されています。これは、国立大学にとどまりません。私が所属する神戸常盤大学のような、小規模~中規模程度の私立大学においても同様です。実際に、平成25年からスタートした「私立大学等改革総合支援事業[4]」の質問項目には、IR部門の設置のみならず、実際の活動についての質問項目が入っていることでも明らかです。
IR部門が設置された時、ある日突然、まったくIRと関係のない職員や教員が、IR部門に配置されます。このような事例は、大学情報・機関調査研究会[5](Meeting on Japanese Institutional Research, MJIR)が主催している研究集会[6]や、International Institute of Applied Informatics (IIAI)[7]が主催している国際学会International Congress on Advanced Applied InformaticsにおけるIRの国際学会、International Conference on Data Science and Institutional Research (DSIR)[8]においても、よく耳にします。この場合、IR部門の担当者は、そもそもIRについてよくわからないのに加え、具体的になにをしたら良いのか、非常に困ります。 ここで、私の所属する神戸常盤大学について少しお話をさせていただきます。まず、2015年にIR部門の準備室が開設されました。これに引き続き、2016年に、正式にIR部門が設置されました。IR部門は、法人本部統括管理部IR推進室と命名され、法人本部直下に設置されました。この法人本部統括管理部IR推進室は、職員のみの組織となっています。一方、神戸常盤大学には、もう一つのIR部門、IR推進プロジェクト(旧IR推進ユニット)が存在します。こちらも法人本部統括管理部IR推進室が設置された2016年に設置されました。こちらは、教員と職員の両方が存在する部門です。私は、2020年度現在、後者のIR推進プロジェクトに所属しています。
神戸常盤大学には、なぜ2つの部門が存在するのでしょうか。課員が職員だけの法人本部統括管理部IR推進室は、主に大学内におけるデータの収集と整理を行っています。一方、IR推進プロジェクトについては、そのメンバーが大学改革に関する、「ときわ教育推進機構」にも所属していることから、主に大学全体についての教育の質保証や改革に必要な政策のための解析などを行っています。
データの収集と整理というのは、解析を行うのに比べて、圧倒的に多くの時間が必要となります。そのため、データの収集と整理を教員が行うのは、現実的には非常に難しいことが多いのではないかと思います。逆に、データ解析などを専門としてこなかった(そうではないスーパー職員の人もいると思います)職員の方には、実際にデータ解析をするのは敷居が高いかもしれません。そのため、近年重要だと言われている、教員と職員の教職協働こそが、IRを行う上で重要なのではないでしょうか。
また、2019年の大学情報・機関調査研究会において、私達は、教員と職員が持っているデータそのものの性質が異なるのではないかという提案を、具体的な例を示しつつ提唱しました[9],[10]。この論文は、大学情報・機関調査研究会のホームページから読めるので、興味があったら読んでみてください。簡単にポイントを紹介します。私達は、データには、2種類、すなわち、合体していないプライマリーデータと、合体(計算など)してできたセカンダリーデータの2種類があるのではないかと提唱しました。そして、教員はプライマリーデータを、職員はセカンダリーデータというデータを持っていることがほとんどです。 さらに、私達は、このプライマリーデータとセカンダリーデータを比較することが重要なのではないかと思っています。しかし、大学においては、両者を比較することは、現実的には非常に難しい現状です。その理由は、プライマリーデータは教員のみが持っており、セカンダリーデータは職員だけがもっているからです。
IR活動においては、職員と教員の両者が連携することで、IRの活動範囲が、職員だけ、教員だけでIR活動をするよりも、格段に大きくなります。もし、これから大学でIR活動をはじめるときには、教職協働ですすめることをおすすめします。
今回は、使用するデータが、職員と教員で異なるため、それらを合わせることでIRの活動範囲が広くなることについて書きました。解析方法についても、教員と職員の両者で行うことで、より可能な範囲が広がります。コラムが長くなるので、これについては次回お話したいと思います。それでは皆様、また次回お会いできるのを楽しみにしています。
参考文献
[7]International Institute of Applied Informatics, “International Institute of Applied Informatics (IIAI).” [Online]. Available: http://www.iaiai.org/top/ [Accessed: 09-Aug-2020]. [9]中田康夫 et al., “EduinformaticsをもとにしたIRの学生データ比較解析における新クライテリアの提案,” in 第8回MJIR研究集会, 2019.
[10」高松邦彦 et al., “EduinformaticsをもとにしたIRの学生データ比較解析における新クライテリアの実例,” in 第8回MJIR研究集会, 2019.
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