IRでなにを考えるのか、それが問題だ(第2回)
カテゴリ:
hr.icon
本シリーズは、ある日突然、まったくIRと関係のない職員や教員が、IR部門に配置された時に、なにをすればよいのかについて考えていくシリーズです。 第1回の前回は、私が所属する神戸常盤大学では、IR部門が、職員だけの部門と、教員と職員から構成される部門の2種類があること、そしてその理由についてお話しました。 さらに、取り扱うデータについて、私達は2019年に、合体していないプライマリーデータと、合体(計算など)してできたセカンダリーデータがあると提唱して、プライマリーデータは主に教員が、そしてセカンダリーデータは主に職員がもっており、教員と職員の協力によってIR活動の幅が広がることについてお話しました。興味がある人は、第1回を読んでから第2回を読んでもらえると、より分かると思います。 さて、今回は、前回の最後に予告した通り、解析方法についても、教員と職員の両者で協力することで、より解析可能な範囲が広がることについて書いてみたいと思います。
協力することで、できることの範囲が広がる。これは、近年「学際領域」と呼ばれるものに、該当します。近年、私達は、教育と情報学を組み合わせた「Eduinformatics」という学際領域の新分野を提唱しています。 これから少し脱線しますが、最終的には「教員と職員の両者が協力することで、より解析可能な範囲が広がること」に言及しますので、遠回りとなりますが、お付き合いください。お急ぎの方は、最後の段落付近まで飛んでください。
私は、子供の頃から数学が好きで、教員を志し、数学科に進学しました。ところが、教育実習に行き、生活指導の仕事もあることや教科書を使って教えなければならないことに気づき、自分には向いてないと感じるようになりました。進路を再考し始めたタイミングである先生に、「これからは数学や物理の人が生命科学の分野でも活躍するようになる」とアドバイスを頂きました。
そこで分野を変更し、分子細胞生物の実験とコンピュータ解析を学ぶことにしました。また、当時はまだなかった、生物学と情報学を合わせた学際領域のバイオインフォマティクス(生物情報学)を学ぶことができました。
神戸常盤大学に来たのはゲノムプロジェクト終了後の2008年のことです。職員と教員を兼務し、研究協力課で、科研費の申請業務やGP(Good Practice)の申請と実践に携わりました。その後も教員として専門の授業にとどまらず、初年次教育なども担当しながら、口腔保健学科、医療検査学科、教育イノベーション機構、こども教育学科、診療放射線学科を経験し、全学教育改革に関わることになりました。 ところが、2014年頃、立て続けに2度も後続車による追突事故に巻き込まれてしまったのです。自分の不運を嘆きつつも、療養期間には多くの時間があったので暇つぶしに、教育関連のさまざまなデータを解析し、論文にまとめて教育や情報、International Conference on Data Science and Institutional Research (DSIR)の国際学会で発表するうち次第に研究業績が増えていきました。しかしあるとき、その状況を間近で見ていた上司の光成研一郎先生から、「あれもこれも手当たり次第に解析しているだけで、研究テーマとしての一貫性がない」と建設的な指摘を受けました。もともと暇つぶしに始めたことですから、一貫性などあろうはずがありません。 そこで、これらの研究成果を改めて俯瞰したところ、文系科目である教育学に、数学やバイオインフォマティクスや遺伝学の研究で培った経験を融合させようとしていることに気づきました。これをバイオインフォマティクスに倣い、「Eduinformatics(エデュインフォマティクス: educationと informaticsの学際的分野としての概念)」と名付け、その概念の構築と方法論の確立を目指すようになりました。 実は当初この案は、単なる思いつきだったのでお蔵入りさせることも考えていたのですが、これまた上司の中田康夫先生が「面白い」と言ってくださったおかげで、研究として日の目を見たという経緯もあります。多職種の人の多様な視点があったからこそ見つけられたテーマでもあるのです。
さて、話を「解析方法についても、教員と職員の両者で協力することで、より解析可能な範囲が広がること」に戻します。
生物の特徴の原因がどこにあるかを決めるために、DNA配列を決める。生物学の世界では、そういう時代が長く続いていました。ですが、ヒトゲノムをシークエンスしようとした頃から、「とにかく一人の人間のDNA配列を全部決めて、そこから何か(他と違うもの)を発見しよう」というふうに変わっていきました。
実験では欲しい答えを予測して、それに向けて設計してデータをとることが一般的でしたが、相手が生き物になると、そうはいかないケースもあります。
「多くの人が仮説を立てる。しかし、その仮説を説明するために合うデータをもってくるケースが多い。しかし、合わないデータが出たときこそチャンス。仮説を構築しなおして、何が起きているのかを見つけるのがすごく重要だ。予測しなかったデータが出れば出るほど、素直にデータと向き合うべきだ」。これは私が恩師の榊佳之先生によく言われていたことです。
IRについても、まさにその通りで、解析方法(研究方法)にも、大きく分けて2種類あります。ひとつは、ある仮説の裏付けや検証のためにデータを取って解析し検証すること。もうひとつは、すでにある大量のデータから解析し、そこから仮説を構築することです。
おそらく、前者についてはこれまでの手法なので、職員の方でも慣れていれれば解析できると思います。後者については、近年、理系文系問わず、大学の教育で必要だと言われている数理データサイエンスの一部がまさにその解析手法となっています。後者については、可能であれば、数理データサイエンスを教えているような教員と一緒に解析できたほうが、より、解析できる範囲が広がるでしょう。
今回は少し脱線しましたが、「解析方法についても、教員と職員の両者で協力することで、より解析可能な範囲が広がること」について書いてみました。次回は、後者の解析手法の大変さについてお話したいと思います。それでは皆様、また次回お会いできるのを楽しみにしています。
※当コラムの文責及び著作権は、すべて投稿者に帰属します。
https://gyazo.com/56b5a3462b8db701e44272936fa0d817