渾沌、七竅に死す
南海の帝を儵(しゅく)と為(よ)び、北海の帝を忽(こつ)と為び、中央の帝を渾沌と為ぶ。 儵と忽と、ある時相与に渾沌の地に遇りあえり。渾沌の之を侍(もてな)すこと甚だ善し。
儵と忽と、渾沌の徳に報いんことを謀りて曰わく、
「人は皆七つの竅(あな)有りて、以て視、聴き、食い、息するに、此れ独り有ること無し。嘗試(こころ)みに之を鑿(うが)たん。」と。
日ごとに一つの竅を鑿ちしが、七日にして渾沌死せり。
現代語訳
南海の帝を儵といい、北海の帝を忽といい、中央の帝を渾沌といった。
儵と忽とは、ある時互いに渾沌のところで巡り合った。渾沌は二人を丁寧にもてなしてくれた。
それで、儵と忽とは、渾沌の好意にお礼をしようと相談して、
「人には七つの穴がある。目で見て、耳で聞き、口で食べ、鼻で息をしているが、渾沌にはこれがない。ひとつ、お礼にこの穴をあけてあげようじゃないか。」
そこで二人は一日ごとに一つずつ穴をあけていった。七日経って、終わったときには、渾沌は死んでいた。
お節介ゆえの死
形のない生き物へ、強いて型を与えようとしたら、それゆえに死んでしまった
語釈
儵忽
時間の極めて短いこと。
儵は、青黒い色、または閃光。
忽は、たちまち。うっかり、ゆるがせにする意もある。
はかないこと、有限の生命、作為を象徴している。
渾は水の激しく流れる音、にごること、まじること。
「混」と同義。
沌は水があつまり、にごること。
声符は屯。たむろする。集まるの意。
天地が未だ分かれていない状態。自然、無為を象徴する。
21-06-19 16:27