性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン
わが国における性同一性障害に関する医療は,法的な問題などのため諸外国に比較すると特有の歴史を辿ってきたが,平成10年10月16日,埼玉医科大学において,わが国で初めて公に性同一性障害の治療として性別適合手術が施行されて以降,次第に臨床活動が普及するようになった. 平成15年7月に,「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」(特例法)が成立し平成16年7月から施行された. この法律によって,性同一性障害者は,性別適合手術の実施を含む一定の条件のもとで戸籍の性別変更ができるようになった. このような経緯を考慮して日本精神神経学会・性同一性障害に関する委員会は,「性同一性障害の診断と治療のガイドライン」(ガイドライン)の果たした役割について再度検証を加え,性別適合手術適応判定を倫理委員会にゆだねるのではなく医療チームの検討によって実施することを改変の骨子とした第3版ガイドラインを,平成18年1月に報告した. 医療チームの独立性が高まるなか,治療情報の普及に伴って多様な受診者が専門医療機関を訪れるようになった. そのなかで特に若年層での受診者の問題が浮上し,諸外国で実施されている二次性徴抑制ホルモンによる治療をガイドラインのなかにどう位置づけるかが,議論の焦点になった. 今回,日本精神神経学会・性同一性障害に関する委員会は,この点を中心に検討を重ね,第4版ガイドラインを作成した. 検討は直接面談による会議だけでなく,メーリングリストを用いたインターネット上でも続けられた.