静が、一生懸命生きようとした証や
僕は隣で横になっとる静の手を取った。
小さな声で、静が言うた。
僕は傷跡を一つ一つ、指でなでた。
「静が、一生懸命生きようとした証や」
静を失いそうになった日。
僕は静を強く抱きしめた。
「僕は怖いよ、いつか静が遠くへ行ってまうんやないかって」
僕は震えとったと思う。
「遥を置いてどこにも行かんよ」
静は優しい声でほう言うた。
「行こうとしとったやん!こんなに痛い思いをして、苦しい思いをして!」
僕は泣いとった。声を上げて泣いとった。
「ごめん遥、ごめんな、もうせんけん」
静は僕の頭をなでた。何度もなでた。
「怖い思いさせてごめんな、もうせんって、約束するけん」 静の手は震えていた。静も泣いとった。
「ごめん静、僕が誕生日の約束を忘れとらんかったら、静はつらい思いをせんで済んだのに」 僕が言うと、静はそっと僕の頭から手を離した。
僕は静を抱きしめる手を緩めて、静の顔を見た。
「遥におめでとうって言うてもらうこと、すごく楽しみにしとった。僕にとっては大切な日やったんや」
静の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ほなって僕が生まれた日やもん、生まれてよかったって思いたかったんやもん」
静は顔をぐしゃぐしゃにして泣いとった。
「もうさせんといてよ、もうこんなことさせんといて。もうさせんって約束して!」
子供のように泣く静を、僕はもう一度抱きしめた。
今度は僕が、静の頭をなでた。
「ごめんよ静、もうさせんよ、約束するよ」
「遥は約束忘れるやん!」
静が僕の胸を叩きながら言うた。
「ごめんよ、もう絶対に忘れんけん」
僕は自分の胸に押し当てられた、静の手をなでた。
日に焼けた僕の手とは対照的に、静の手は白かった。
「遥、ごめんなさい、僕を嫌いにならんといて」
泣きつかれたような声で、静が言うた。
「ならんよ」
僕は静の手を握りしめた。
細い手首に残った、僕がつけたたくさんの傷跡。
静が、一生懸命生きようとした証。