僕の理想はめっちゃ高いですよ
静が来てからは4人でつるむことが多くなり、二人でゆっくり話をすることもあまりなかった。
「ほらエビちゃんと二人でおったら親子にしか見えんでしょ」
遥が静と二人で歩いていたら親子だと思われたことを愚痴ると、円は真顔でそう言った。
「ほなって伊勢原さんもう今年で48でしょ?かたやエビちゃんは25で、ほんでどう見ても25には見えんでしょ?」
「まあ、ほうですけど……」
「あれは17くらいにしか見えへんのとちゃうかな……ほしたら周りから見たら30歳くらい差があるように見えるんですよ」
「無茶苦茶やな……」
「伊勢原さんいつもエビちゃんの父親面しとうやないですか」
「いやまあ、してますけど……」
それでも、もう少し自分も若く見えるとか言ってほしかった遥だった。
「そろそろ自分がおっさんやと認めなアカンね」
「キツぅ!自分やっておっさんのくせに!」
ここにきて初めて遥が円に文句をつけた。
「僕もおっさんやけど、今でも若い子から逆ナンされますから」 円はすました顔でそう言った。
「えぇ……すご……え、ほれで逆ナンされたらどうするんですか?」
何気なく遥が訊ねると、円は遥から視線を外して焼酎をあおった。 「断ります」
「えぇ?」
グラスを空にした円が、テーブルに視線を落としたままそう答えたので、肩透かしを食らった遥は素っ頓狂な声を出した。
「デートせえへんのですか?まあ、東雲さんは理想が高そうなけんなぁ」 遥が同じくグラスを空にして、二人は焼酎のお代わりを頼んだ。
「僕の理想はめっちゃ高いですよ」
運ばれてきたストレートの焼酎を一口飲んで、円が言った。
酔いが回ってきたのか、二人とも饒舌になっていた。
「僕の理想はね、和なんです」
突如として円が口にした言葉に、遥は焼酎を吹き出しかけた。
遥の頭の中で、『理想が高い』と『和』がイコールで結ばれなかった。
「和は僕にとって完璧な女です」
すっかり出来上がっている円とは対照的に、遥は一気に酔いが醒めてしまった。
「ほういうとこがまたかわいいんでしょ。まあ、股を開くんは僕の前だけにしてほしいですけどね」
頬を紅潮させてそう言う円を、遥は呆然として見ていた。
「だいたいね、伊勢原さんが和を和と呼び捨てにするんも僕は認めてへんのですよ。和はね、僕の大切な人なんですよ。和が僕の嫁になった暁には、和のことは和さんと呼んでもらいますからね」
円がここまで酔うのは珍しいことだったので、遥は対処に困った。
「あ~はいはい……」
「はいは一回でしょ!!!」
「はい……」
結局、遥は円が酔いつぶれるまで和がいかにいい女か延々と聞かされた。 長すぎる夜だった。