僕はお父さんなんやけん
円は今までよりもずっと元気になった。
好きやったコーヒーの代わりに、カフェインの入っとらんお茶を飲むようになった。 二人分食べないかんと言うてよう食べるようになったし、体力を付けないかんと言うて車椅子で散歩にも行くようになった。
よう笑うて、今までにも増して優しい顔つきになった。
僕はそんな円を受け入れた。円が幸せなら、僕も幸せやった。 円はインターネットのショッピングサイトを見て回るんが好きやった。
小さな服や靴を見て、あれもええな、これもええなと悩んどった。
円があんまり欲しそうに見よるもんやけん、僕は根負けして、白いロンパースと靴下を買うた。
宅配便が届くと、円はプレゼントをもうた小さな子供みたいに喜んだ。 日曜日の朝、円はお腹の赤ちゃんにクラシックを聴かせながら編み物をしよった。 円は器用なけん、初めてする編み物もすぐにうまくなって、今は小さな帽子を編んどるところやった。
僕はそんな円にあったかいルイボスティーを淹れて、少し休憩せんかと言うた。
「ありがとう」
円は帽子と毛糸をかごにしまうと、お茶を一口飲んで愛おしそうにお腹をなでた。
「僕も触りたい」
僕が言うと、円は笑顔でうなずいた。僕がそっとお腹をなでると、円はくすぐったそうに笑うた。
円はあの夜から毎日お腹を触らせてくれた。僕は何も感じることができんかった。
でも、今日は違った。僕の手のひらは、円のお腹の中で何かが動くのを感じた。
「動いた」
びっくりして思わず声が出た。
円は僕の手に自分の手を重ねて、優しく微笑みながらうなずいた。
ホンマにおった。円と僕の赤ちゃん。
少し緊張しもって僕が言うと、円は何をいまさら、とおかしそうに笑うた。
その日から、赤ちゃんは僕が触るたびに動くようになった。
僕は円が呆れるくらい赤ちゃんをかわいがって、歌を歌ったり、絵本を読んで聞かせたりした。
ベビーベッドに山ほど積んだおもちゃを見て、円は「気が早すぎる」と言うて笑うた。
ほなって、いつでも産まれてこれるようにしといたらんと。僕はお父さんなんやけん。