僕の勝負服にします
みんなで祝った東雲さんの40歳の誕生会を終えてから、僕は改めて個人的に東雲さんを誘った。 ほなって40歳言うたら2度目の成人式とか言うでなぁ、おっさんの先輩としては盛大にお祝いしたいやん。
ほんでいろいろ考えたんやけど、服も靴も時計も、東雲さんはセンスも値段もええのん持っとんよな。
「僕が欲しいんは伊勢原さんの愛情だけですから」
「絶対言うと思うたわ。東雲さんにはこれ以上ないくらいの愛情を注いどるでしょう」
相変わらずの東雲さんにほう返しながら、僕はダイニングの机に二人分のカレーを並べた。 カレーの皿を食い入るように見て、東雲さんが嬉しそうに声を上げた。
カレーには星型にくり抜いたにんじんが入っとった。東雲さんはほれを「お星さまのカレー」と呼ぶんよ。
一生懸命写真を撮りよる東雲さんに、冷えるけんはよ食べなさいと言うた。まったく、今時の子みたいなことして。
「いただきます」
「召し上がれ」
ほしたら東雲さんは早速にんじんをスプーンですくって僕に見せた。
「ほら、お星さま」
東雲さんが無邪気に笑うもんやけん、思わず笑うてしもたよ。ほなってほれ作ったんは僕やのに。
「はよう食べなさい」
再び僕に言われて、東雲さんはようやくスプーンを口に入れた。
「うわぁ、おいしい。僕の好きな甘口や」
みんなで食べるときはだいたい中辛を食べようけど、ホンマは甘口が好きなんよな。ほれも、小さい子向けの全然辛みがない甘口な。
二人きりのときくらいかっこつけんと好きなもんを好きなだけ食べたらええと思うて、今日は東雲さんの好きなお星さまのカレーにした。
「ありがとうございます、伊勢原さん」
「こちらこそ、いつもありがとうございます。ほなけどまぁ今日は堅苦しいんは抜きにして、楽しみましょう」
僕が言うと、東雲さんは嬉しそうに笑うた。
「今日は泊っていくでしょ?」
「いや、着替えとか持って来とらんし」
「今も昔も僕のがぴったりですよ。ね、ええワイン開けますから付き合うてくださいよぉ」
あんまり東雲さんが言うもんやけん、結局泊まることにした。まあ、せっかくええ酒があるんやったら、二人で飲んだ方がうまいでな?
「デザートのりんごもちゃんとうさぎさんりんごや。子供がおったら喜びますよ。あーぁ、僕が女やったら絶対伊勢原さんの子供を産むのに」 残念そうに東雲さんが言うもんやけん、僕は変な顔で笑うてしもた。
「あ、笑いましたね?僕は本気やのに。今からでもどうです、試してみませんか?」
「何をどう試すんや……」
困り顔の僕を見て、東雲さんは楽しそうに笑とった。
食器を片付けてから、僕は持ってきたプレゼントを東雲さんに渡した。
「え!まだ何かくれるんですか?これ以上は罰が当たりますよ!」
ほう言いながら、東雲さんは嬉しそうに紙包みのリボンをほどいた。
「うわぁ……」
喜ぶ気満々やった東雲さんの顔が、見る見るうちに苦笑いになっていった。
「ダッサぁ……」
東雲さんが広げた白いTシャツには、渋い顔でノートパソコンを見つめる黒猫が独特のタッチで描かれとった。
「東雲さんに似とると思うて」
ニヤニヤしながら僕が言うと、東雲さんもなんかニヤニヤして、おもむろに服を脱ぐとそのダッサいTシャツを着て僕に見せた。
「似てます?」
「似てますね」
即答すると、東雲さんは喉から変な声を出して笑うた。僕ももらい笑いしてしもて、なんやわからんけど二人で笑い転げてしもた。
「ありがとうございます、伊勢原さん。僕の勝負服にします」
東雲さんは嬉しそうに笑うて言うた。仕事中には見せん、子供みたいな笑顔やった。
ありがとう、東雲さん。そんな風に笑うてもらえると、悩んで選んだかいがあるよ。
僕のかわいい後輩、大切な親友。これからもずっと、よろしくな。