ありがとう、僕を幸せにしてくれて
明日は日曜日で僕も休みやったけん、円にどこか行きたいところはないか訊いたら、ないと言われてしもた。 その代わり、少し夜更かしがしたいと円は言うた。
僕は円をそっと抱き寄せて、キスをした。円の唇はあったかくて、柔らかかった。 服に手をかけると、円はうつむいて頬を赤らめた。嫌か、と訊くと、円は小さく首を横に振った。
僕は円の体の隅々まで触れた。すべての傷を指と舌でなぞった。円はくすぐったそうに体をよじらせた。
僕に抱かれて、円は何度も僕の名前を呼んだ。
ほう言うて円は涙を流した。
朝、目が覚めると、隣で寝とったはずの円の姿が見当たらんで、僕は慌てて寝室を飛び出した。
円はリビングのクッションにもたれかかって、こっちを見とった。
喉元に、ハサミの刃先を当てて。
「遥、今までありがとうね」
円は笑とった。
僕は円に飛びかかってハサミを取り上げた。
「なんでよ?幸せなんだろ?」
円の両手首をつかんで僕は叫んだ。円は震えとった。
「遥の足かせになって生きるんはつらい」
ほう言うて円は声を上げて泣いた。子供みたいに泣いた。
「僕が一度でも、円が足かせになっとるなんて言うたか?!」
僕は円の手首をつかんだまま、涙でぐしゃぐしゃになった顔をのぞき込んだ。
「僕が死んだら、遥はきっと楽になるよ。罪滅ぼしのために僕を抱かんでも済むんやけん」
怯えた顔で、泣きながら円が言うた。
円。僕はほんなこと、思わせとったんか。
「遥、痛い……怖い……怖い……ごめんなさい……ごめんなさい……」
僕の手を振り払うこともできずに、円は震えながら泣いとった。
円の細い手首には、僕が握りしめた手の跡が赤くくっきりとついとった。
遥、と円の唇が動いた。
指の背で頬をなでると、円は薄く目を開けた。
円はかすれた声でほう言うて、嬉しそうに笑うた。
「真っ白なタキシードな」
ほう言うて頭をなでると、円はくすぐったそうに笑うて小さくうなずいた。
円。二人で夢を見よな。幸せでいっぱいの夢を。