神前酔狂宴
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発行年月 2026年3月(文庫版)
以前読んだ『フィールダー』がすこぶる面白かった古谷田奈月の過去作『神前酔狂宴』の文庫版が出ていたので買って読んでみたらこちらもすこぶる面白かった。
導入こそ主人公・浜野が働く結婚式場にまつわるドタバタだったり、結婚披露宴なんてわざわざひとを集めて幻みたいなものに高い金額を支払う因習の奇妙さを切り取るコメディの雰囲気だったものが、だんだん式場での労働の効率化に目覚めたスタッフ達が能力主義とかネオリベラリズム的な考え方を内面化していったと思いきや、そこに結婚制度についてまわる日本の伝統的家族観の延長としての神道ナショナリズムがじんわり侵食してきたりと、めまぐるしく展開して舞台のレイヤーが多層的になっていくのがまず楽しい。
それでいて、神道ナショナリズム的価値観という一見わかりやすい敵、というか立ち向かわざるを得ないなにかが不気味ではあれど単に悪いものとして描かれているわけでもなく、それによって確実に救われている身近な人間も出てくれば、主人公・浜野がそれに立ち向かうにしても政治的にリベラルな価値観でなんて話では全くなく、浜野なりの論理とやり方で対峙してくことになるっていう、既にさんざん言葉にされている問題提起をするなんて話になっていかないのが、『フィールダー』の後で読んでみると古谷田作品の信頼出来る特徴なんじゃないかという気がする。
わざわざ現実で問題とされている思想・現象だったり社会構造を文学で扱う時に、肝なのはそこで政治闘争のような「正しさとは」って軸で戦う姿を描くものではなくて、そういう思想の奥にある社会を覆う虚構性にどのように対峙してひっぺがえしていくのかって話がなされているというか。
というようになかなか自分じゃ上手くまとめらんないのだけど、文庫版の巻末に載っていた倉本さおりさんの解説が端的で非常に分かりやすかったので気になる人はそれを読んで欲しい。