太陽諸島
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発行 2022/10/18
「ある人種に完全に属するという事が単なる幻想であるのと同じじゃないかな。スウェーデン人になる事を目標にして十年以上頑張っていた同郷人の女性がいる。サリーを着るのをやめて、髪は金髪に染めた。ところがある日、どういうわけかこれといったきっかけもなく又、サリーを着始めたのさ。これはホームシックじゃない。あまりにも長い旅に出るとそのうち旅をすること自体が目的地になってくる。そうなるともう急ぐ必要もないので何でもありで、今と昔が混ざっている方が快くなる。昔を切り捨てる必要がなくなるんだ。それと似ているかな。」 (p17)
「もしもわたしがかつて暮らしていた土地にある日また戻る事ができ、その土地に立ったら、その時ヨーロッパがフィクションのように見えてしまうかもしれない。でもそうすると、今わたしに一番近い存在である旅の仲間たちが物語の登場人物になってしまって、わたしだけが現実という名前の孤独な場所に残される。それは嫌です。みんながいっしょでいるためには、知らない人たちをフィクション化するのはやめるか、みんなでフィクションになってしまうか、どちらかなのではないでしょうか。」 (p214)
「沈黙する理由は様々です。わたしの場合は文学史から忘れられたというのが主な理由です。言語では戦争が防げないと知って絶望して黙ってしまった人もいます。どうしても嘘をついてしまう病気にかかっている正直な人は、嘘をつかないですむように黙っています。黙ってしまう理由は人それぞれで、」 (p242)
ゆるやかに体当たりし合って、楽しげに砕ける波は、もう怖い顔をしていなかった。わたしたちは波と似ている。押し合い、ぶつかりあい、形を崩しては、また新しい形をつくり、いろいろな方向に目を向けながら、いつも揺れている。 (p334)